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恋をする甘党の彼_5
楽しみ過ぎて気持ちが落ち着かず、待ち合わせの場所で待っていようと早めに家を出る。
開園前の動物園には既に家族連れやカップルなどがおり、その中には待ち合わせの相手を待つ人もいる。
真野はスマートフォンを弄りながら時間をつぶそうと門の近くの壁の前に立つ。
それから暫くすると浩介の手を引き歩いてくる信崎の姿が見え、真野に気が付いたのか手を挙げ、それに応えるように手をあげようとしたらすぐ近くの女の人も待ち人が来たようで手を振っている。
タイミングが一緒でなんだか恥ずかしくなってきて真野は手を振るのをやめると、信崎が途中で立ち止まりこちらを見つめていた。
どうしたのだろうか。なにか忘れ物でもしたのかと、それに気が付いて立ち止まってしまったのかとそう思いながら信崎の達の方へと向かおうとしたら、
「信崎さん」
と先ほどの女の人が信崎の方へと小走りに向かう。
どういう事だ、これは。
真野はかたまったまま動けずに二人の様子を窺う。
すると信崎が此方へ向かってきて、その後をついていくように女の人と浩介が来る。
「真野」
「お知り合いですか?」
「えっと彼女は……」
話しにくそうな信崎を真野は不安げに見つめれば。
「元妻の友達でな。何度か三人で会った事がある」
という返事だ。
それはただの友達として会ったのか、それともお付き合い相手にと紹介されて会ったのか。
真野の胸がずきずきと痛み、苦しくてここから立ち去りたくなった。
だが、そんな時。浩介がおにいちゃんと足に抱きつき笑顔を浮かべて見上げてくる。
「浩介君」
そうだ、自分は浩介と約束をしたんだ。
この思いが真野をここに留めさせる。
「真野、こちらは坂下さん。で、こちらは俺の会社の後輩の真野です」
そう信崎が互いの紹介をする。
「宜しくね、真野さん」
「はい。宜しくお願いします」
互いに挨拶をした後、坂下がいきなり来てしまった事を詫びる。
「信崎さんが後輩の方とお約束していた事を知らなくて」
浩介を連れてここに来ることは信崎の元妻に聞いたそうだ。
「皆で一緒に楽しみましょう?」
ね、と、信崎が坂下に笑いかけ、真野に御免と手を合わせる。
「おねぇさんもいっしょなの? やった」
浩介が嬉しそうに飛び跳ね、真野の胸が更に痛んだ。
それから浩介に引っ張られるように動物を見て回り、小動物と触れ合えるエリアに来たところで坂下に浩介を任せ、真野と信崎はベンチに腰を下ろす。
「真野、すまなかった。彼女がここに来ることは知らなかったんだ」
と謝られて、真野は良いんですよと首を振る。
今、浩介と坂下はウサギと遊んでおり、優しそうな笑顔で浩介を見る彼女は母親のようだ。
「……信崎さん、俺はこのまま帰りますね」
浩介が動物に夢中の間に帰ろうとそう思って言ったのに、信崎が腕を掴んで引き止める。
「帰らなくていい」
そういうけれど、ここにいるのが辛いのだと正直に話すと掴んでいた腕が離された。
「誘っておいてこんなことになってしまってすまない」
「あ、違うんですよ。気持ちが辛いんじゃなくて、実はいうと、昨日、あまり眠れなくて……」
そう笑って答えれば、信崎は複雑な表情を浮かべて真野を見る。
「真野、お前」
こんな誤魔化しなんてしても信崎は騙されないだろう。
すっと伸びてくる手が頬に触れそうになる。
その瞬間、真野はその手を避けるように立ち上がり、
「ほら、信崎さん浩介君の所に行ってください。じゃないと怪しまれますから」
信崎の肩を数回たたいていくように促した。
「じゃぁ、また」
そういうと手をあげて信崎に背を向ける。
ひたすら、ここから逃げ出す事だけを考えて歩いていた。
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