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恋をする甘党の彼_6

 今、一人になったら泣いてしまいそうで、真っ直ぐに家に帰らずに江藤の喫茶店へと向かう。  外から店の中を覗けば、会社が休みの所が多いせいか客の入りはまばらだ。  真野はドアの前で一つ息を吐き捨て、笑顔を浮かべるとドアを開けた。 「いらっしゃいませ。って、あれ、真野君!?」  お昼に近い時間帯。まだ動物園にいる筈の真野がここにいる事にいていているようだ。 「動物園に行ったんじゃ……」 「行きましたよ」  カウンターの席に腰を下ろしてホットコーヒーを頼む。 「あ、うん、今、用意するよ」  一先ずは珈琲を入れる事に集中しはじめる江藤をぼんやりと眺める。  きっと気になっているだろう。  きちんと話せるかなと思いながら暫くすると良い香りがして、目の前に珈琲とパンが出される。  確かパンは平日のみの筈ではと思いながらも有りがたくそれを受け取る。 「何かあったの?」  心配そうに聞いてくる江藤に、真野は珈琲を一口飲んで。  それからゆっくりと江藤に視線を合わせてこたえる。 「実はですね。待ち合わせをしていた場所にですね、俺と同じように信崎さんを待つ女性の方がいたんです」  驚きましたと大袈裟に驚いて見せれば、江藤は「えっ」と声をあげて目をしばたたかせる。 「元奥さんのお友達とかで、三人で食事にも行ったそうですよ」  信じられないというような顔で黙り込む江藤に、真野はクスクスと笑い声をあげる。 「浩介君も良く懐いていたし。もしかしたら信崎さん、お付き合いするかもしれません」  そう口にした瞬間、江藤が苦い表情を浮かべて真野を見る。  きっと無理をしていると思っているのだろう。 「江藤さん、そんな顔をしないでくださいよ」  もともと信崎にはフラれているのだから気にしていないと言えば、 「わかった。もうしない」  と江藤はいつものように穏やかな表情を浮かべ。  そうだと声をあげて、ぽんと手を合わせる。 「真野君、今日、一緒に飲まないか?」  大池も呼んでという提案に、良いですねと提案にのる。  一人になりたくはないし、今は江藤の優しさに甘えたい。 「大池に連絡しておくよ」  店の奥に引っ込んで暫くしてから指でOKのマークを作って見せる。 「楽しみですね」 「あぁ。真野君、またお手伝いよろしく頼むな」 「はい、勿論です」  お酒は大池が買ってきてくれることになり、真野は江藤が店を終えるまでスーパーで買い物をして準備をしておくことになり、家の鍵を預かった。  

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