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恋をする甘党の彼_7

◇…◆…◇  真野と浩介との三人で動物園をまわる筈だったのに、今、共にいるのは坂下という元嫁の恵理の友人の女性。  絵理と三人で食事を何度かしたことがあり、家庭的で優しい事を知っているし、浩介も良く懐いていていた。 「真野さん、大丈夫でしょうか」  真野の事は気分が悪くなって帰った事を二人には伝えてある。  浩介は真野が帰ってしまった事に泣きじゃくったが、今は信崎におんぶされて大人しくしている。 「明日にでも様子を見に行ってきますよ」  だから今は楽しみましょうと信崎が言うと、坂下は解りましたと微笑んだ。  動物園を後にし、少しお話をしましょうということになり喫茶店へと入る。  そこで、坂下から「結婚前提でお付き合いして欲しい」と言われた。 「俺と、ですか?」  彼女の好意には気が付いていたが、自分に対して結婚を考えているとは思わなかった。 「考えてみて下さると嬉しいです」  そう言葉を締めくくり、帰りましょうと眠そうにしている浩介を休ませてやってくださいと席を立つ。  駅で別れ、このまま信崎は絵理と落ち合う為に電話をする。  ここから信崎の家へ帰るよりも彼女住むマンションの方が近いからだ。 「早かれ遅かれ、アナタから連絡があると思ってた」  どうだったと聞かれて、信崎はため息をつく。 「どういうつもりだ?」 「どういうつもりって、彼女から聞いたわよね。私はそれのお膳立てをしただけよ」  会社で安く買えたからと言って動物園のチケットを渡されたのは方便だった訳だ。  呆気にとられながら絵理を見れば。 「で、アナタはどうなの?」  と、信崎の気持ちを聞いてくる。 「彼女は家庭的で優しいし、浩介も懐いている」  きっと彼女は自分に尽くす良い妻となるだろう。 「それなら……」  良い返事を期待しているのか、ぱっと顔を明るくする絵理に対し、信崎は口を開きかけて黙り込む。  動物園で真野が言った「辛い」という言葉を思い出していたから。  そんな事を言わせたかった訳じゃない。浩介と一緒に楽しんでもらいたかった。  真野の事を考えていたら、 「ちょっと、話聞いてるの?」  と絵理に言われて我に返る。 「あ、すまん」  ぼっとしていたと素直に謝ったところで、メールが送られてきた事を知らせる着信音が鳴る。   見てよいかと断りを入れてからメールを開けば、相手は江藤からで。家に来てほしいと言う知らせだった。 「絵理、江藤からお呼び出しくらったから行くわ」 「そう。なら浩介はこのまま引き取るわ」 「宜しく頼む」  坂下との事はまた今度といい、寝ている浩介の頭を撫でる。 「じゃぁね。江藤君に宜しく言っておいて」 「あぁ。またな」  江藤のところへと為に絵理に別れを告げ、駅へ向かって歩き出した。

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