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恋をする甘党の彼_9

 勢いよくベッドから落ちた。  というか突き落とされたというのが正しいのだが、その衝撃で眼は醒めたが寝起きのため頭は回転しておらず、一体何が起きたのかすぐには理解できなくてぼんやりとベッドの方を見れば、真野が真っ赤な顔をして座り込んでいた。 (あぁ、そうだった。一緒に寝てしまったんだっけ)  信崎は床に座ったまま、顎だけベッドの上にのせて真野を見上げて、 「随分と乱暴な起こし方をするなぁ」  と苦笑いをしながら言う。 「なんで、信崎さんとベッドに、ていうかここ何処ですか!!」  真野はどうやら混乱しているらしく、何故か身を守るように布団を掴んでいる。  信崎の事を手が早そうに見えるのだろうか。だとしたら傷つくなぁ、なんて思いながら何もしないよとばかりに両方の手の平を真野の方へと向け、落ちつけよというようなジェスチャーをする。 「ここは俺の家の寝室。で、江藤から連絡を受けて酔っぱらってたお前を連れてきたという訳」 「江藤さんが信崎さんに連絡したんですか!?」 「あぁ。随分飲んでいたみたいだな」  そう言葉を口にした途端、真野はビクッと肩を揺らすが理由を答えるのではなく別の事を口にする。 「じ、じゃぁ、なんで一緒に寝ていたんですか?」 「ん? 二人で寝ても十分に寝れるだろ、このベッド大きいし。だから」  たいした理由は無いとばかりに言えば、今度は肩を落として項垂れる。 「……そう、ですよね」  そのままシーツを掴んで黙り込む真野に。 「で、お前はどうしてそんなに飲んでいたんだ?」  と理由を尋ねる。  肩が揺れ、ハッとしたように顔を上げる真野だが、口を開きかけて閉じてしまう。  暫く無言のままであったが、ぽつりと真野が呟いた。 「お祝い、です」 「お祝い? 何の」 「女っ気のなさそうな信崎さんに、親しいそうな女性がいたから。だって、だらしのない貴方に好意を寄せて下さる女性なんて、この先現れないかもしれないんですよ? だから上手くいけばいいなという思いも込めまして」  そう捲し立てる真野に、信崎は苦笑いを浮かべ。 「おいおい、随分な言われ様だけど、俺、結構モテるのよ? って、まぁ、それはひとまずおいといて」  いったん、一息入れ。 「実はさ、坂下さんからは結婚前提でお付き合いして欲しいと言われた」 「そう、なんですか。……おめでとうございます」  傷ついた顔を浮かべながら必死でそう口にする。そんな真野に対して信崎はスッと目を細めて額を弾いた。 「え、痛ッ、な、何をっ」  弾いた箇所に手を当て、困惑する真野が信崎を見る。 「無理するな」  信崎の言葉に目を見開き、すぐに顔を反らしてしまう。 「別に無理なんてしてませんよ」 「今にも泣きそうな顔してるぞ」  と真野の顎を掴んで自分の方へと顔を向かせれば、嫌だとばかりにその手を振り払おうとする。  だが信崎は離すことなく真野の唇へと親指を滑らせる。 「や、信崎さんッ」 「なぁ、真野。お前の本心を聞かせろよ」  指を離し、頬を両手で包み込むと顔を近づけて真っ直ぐに目を射抜けば、すぐに真野の目が信崎を睨み返す。 「俺の本心なんか聞いてどうするつもりですか? 一度、貴方にフラれているのに、またあの時みたいに辛い想いをしろというんですか!!」  酷いですと言い目を伏せる。 「……真野」 「俺は、貴方が幸せならそれで良いんです。だからッ!」  これ以上、言わせないでくださいと言う真野に。 「なら、お前が俺を幸せにしてくれよ」  とその身を抱きしめた。 「え?」  困惑する真野に、 「俺が幸せならそれで良いんだろう?」  と、彼の額に額を合わせた。

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