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求愛される甘党の彼_11

 乱暴な態度。無意識に何か彼を怒らせるような事をしてしまったのだろうかと慌てる。 「俺、何か君にしてしまったかな」 「別に、何もねぇです」 「だって、眉間のしわがすごいよ」  と乃木の指が眉間へと触れ、それを勢いよく払い除ける。 「触らねぇでもらえませんかね」 「百武君」 「家に帰ったらどうですか。さっきの子が待っているんでしょう?」 「いや、今帰ると、寧ろ、邪魔って言われるかもな」 「兎に角、俺は帰り……」  百武の言葉を遮るように、 「あぁ、そうか。君、嫉妬してるのか」  と言葉を重ねた。 「はぁ、何、寝ぼけたことを言っているんですか!!」 「え、だって、イライラしているのはそういう事でしょう?」 「自惚れねぇでください」 「これが自惚れずにいられますかってぇの」  目を細め口角を上げる仕草はかっこよく。思わず胸が高鳴ってしまい、それを誤魔化すように、 「なら、勝手にどうぞ」  とそっけない態度をとる。 「なら、自惚れついでに、掃除が終わるまで喫茶店で一緒に待っていないか? 家に君を招待したい」  ダメかなと両手を握りしめられる。 「自惚れついでって、なんですか、それ。まぁ、どうせ拒否権なんてねぇんですよね?」 「うん」 「はぁ、わかりました」 「やった。じゃぁ喫茶店に戻ろう」 「はい」  再び戻ってきた二人を、江藤は微笑みながら向かい入れる。  カウンターの席に並んで座り、先ほどと同じメニューを頼んだ。 ◇…◆…◇  家に戻ると綺麗になった部屋へ百武を招く。 「先生の部屋……」 「本しかないでしょ」 「あ、これ、鷲庵先生の本っ」  目がキラキラしている。自分の本ではまだこんな顔をしてもらったことはない。 「なに、まさかファンとか?」 「はい」  これは、結構ダメージが大きい。  好きな子に他の作家のファンだといわれることがこんなに応えるとは思わなかった。 「乃木先生?」  ソファーに座りいじける乃木に、どうしたんだと隣に腰を下ろす。 「百武君は俺と鷲庵先生とどっちが好きなの?」 「え、鷲庵先生ですけど」  即答されて、更に落ち込む。 「どうせ俺なんて」 「はぁ、乃木先生って情けねぇんですね。俺を振り向かせる作品を書いてやろうとか、思ってはくれないんですか?」  期待しているんですけどね、と、真っ直ぐに見つめられて。 「本が絡むと、君は凄い事を言ってくれるんだな」 「何度も言ってますけど、先生の書く話は好きですから」 「俺に対する気持ちも、そうであって欲しいところだね」  ソファーへと押し倒して口づけをしようとすれば、それを百武の掌に邪魔される。 「本当、隙がねぇです」 「そりゃ、好きな子に対しては肉食ですから」 「俺は食われたかねぇんで」  そういうと身体を押しのけられてしまう。 「手をだすつもりなら帰りますけど?」  そう言われて焦る。  本当に百武は帰ってしまうだろう。

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