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求愛される甘党の彼_10
【小説家は愛を囁く】
仕事の用事で乃木に会う時は、江藤の喫茶店で待ち合わせをする。
部屋で二人きりにならずに済むので助かるのだが、乃木は人目を気にしないタイプなのか、この前、喫茶店でキスされて以来、百武は警戒している。
出来る事なら会いたくない。だが、何か渡したいものがあるときは直接届けて欲しいと連絡があり、行かざるをえない状況となってしまったのだ。
百武の性格を解っていて先に手を打ってきたのだろう。
それゆえに郵送しようと思っていたモノを、休暇だというのに届けなければいけない羽目となったわけだ。
待ち合わせの時間より少しはやめに着いてしまった。カフェモカでも飲んで待っていようと店の中へと入る。
「いらっしゃい。あれ、待ち合わせ?」
「はい。カフェモカをお願いします」
「畏まりました」
百武はいつものテーブル席へと座り、ぼんやりとしながら待っていると、程なくして甘い香りと共に目の前にカフェモカが置かれる。
「お待たせいたしました」
「ありがとうございます」
カウンターに戻り、その席に座る青年と会話をし始める。どうやら江藤とは知り合いのようだ。
纏う空気が柔らかくて話しやすい人だからだろうなと思いつつ。乃木がくるまで仕事をして待っていようとノートパソコンを取り出す。
すると、いつもはぎりぎりに来る乃木だが、今日は時間よりも早く喫茶店へやってくる。
「乃木先生」
「あ、うん。ちょっと待ってて」
乃木は百武へ手を上げて挨拶を返し、カウンターの席の青年へと声を掛けた。
もしや、彼は同業者で、打ち合わせの予定があったのだろうか。だとしたら一旦、外に出ていようか。
そう思い、ノートパソコンを閉じて鞄にしまうと、江藤が気が付いて乃木に声を掛ける。
「座ってて大丈夫。この子は違うから」
と、青年を連れて店を出て行った。
違うのならなんなのだ、彼は。
そう思ったところでハッとなる。乃木と彼がどういう関係だろうが自分には関係ない事だ。なのに何を気にしているのだろう。
(いや、一緒に仕事しているんだから気になって当然か)
そう、きっとそれで気にしているだけだ。
「お待たせ」
どれくらい物思いにふけていただろう。いつの間にか目の前に乃木の姿があり、江藤がコーヒーを運んできた。
「百武君?」
「もう、良いんですか?」
「え、あぁ、彼の事か。大丈夫だよ、部屋の掃除を頼んでいるだけだから」
「掃除、ですか」
「うん。ほら、俺の家で打ち合わせをしない理由を前に教えたでしょう?」
「そう、でしたね」
ということは彼は部屋に入ることを許されている人物という事で、自分に告白をしておきながら他の男を家にあげるという訳か。
「なんか、ますます苦手になりそうです」
自分が男前だとわかっていてからかっただけなのだろう。
「これをお渡ししたかっただけなので。用事が済みましたので帰ります」
席を立ち、江藤に乃木の分と合わせてコーヒー代を払うと外へとでる。
「まって、百武君」
すぐに乃木に腕を掴まれて、その腕を振り払う。
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