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求愛される甘党の彼_9

◇…◆…◇  新しいジャンルの話を書いたのは他の雑誌で、百武にはそれは恨めしそうな目で見られた。 「なんで、うちの雑誌で書いてくれなかったんです!?」  今日発売の女性向け雑誌を乃木の目の高さまで掲げて見せる。 「えぇ、だって君の所が俺に求めているのはファンタジーな戦闘モノじゃない」 「う、確かにそうですけど」 「もしかして、気に入ってくれたのかな?」 「はい。読んでいて心が暖かくなりました」  優しく、ほっこりとなれる話を書いてみませんかと、女性編集長に声を掛けられた。  連載でいっぱいいっぱいだからと断っていたのだが、百武の事を知りたいと思うようになった頃から新しいジャンルの話を書いてみたくなった。  そう、百武は乃木を優しい気持ちにさせてくれる、愛おしい存在なのだ。 「君が俺を変えたんだよ」  だからこの話が生まれた。 「え?」 「百武君、俺の恋人になって欲しい」 「なっ、何を言って」 「本気だよ。今まで打ち合わせの時、仕事以外の話をしてくれなかったのに、今は俺と仕事以外の話もしてくれる。それって、少しは俺の事を好きって事だよね?」 「……自惚れないでください」 「あれ、違ったかな」  目元を赤く染めながら言われて、きっと好かれているのだと、そう思ってしまう。  頬へ触れて親指で撫でれば、ふるっと肩を震わせる。 「小説家としては尊敬してますし好きですが、一人の男としては苦手ですから」  好きな人の可愛い姿にムラッとしてしまうのはしょうがないだろう。  だから人の目があることを忘れて唇を重ねてしまった事も、その後、百武にお冷をかけられたこともしょうがない。 「乃木先生の、そういう所が嫌なんですよ!」  そういうと喫茶店から出ていく百武の後姿を眺めつつ。  タオルを持ってきてくれた江藤に、 「顔、ニヤついてますよ」  と呆れた調子で言われ。  タオルで拭いながら、江藤を見上げる。 「怒らせちゃった」 「酷い人ですね、乃木さんは」  次の打ち合わせの時、百武は自分の非を口にし謝罪する。  そして告白は無かったことにし、仕事の話をするのだろう。 「本気で好きなんだ、彼の事」  だから彼の中で自分の存在を大きくするために、自分の想いを伝えていきたい。 「程ほどにしないと嫌われますよ」  と江藤が暖かい珈琲を入れてきてくれた。 「あぁ、気を付けるよ」  有りがたく忠告と珈琲を頂き、これからの事を思うと心がいそいそとする乃木だった。

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