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求愛される甘党の彼_13

【担当は愛に戸惑う】  困る。これ以上、乃木に求められるのが。  今までの自分は先生と担当編集だと割り切って付き合いをすることができた。  なのに、乃木を知るうちに今まで出来ていたことができなくなり、キスもお礼としてならばと受け入れてしまっている。  しかも、 『ごめんね。君の事が好きなんだ』  と言われ。それがさらに自分を苦しめる。  喫茶店から漏れる明かりに、引き寄せられるように足を向ける。  ドアにはcloseの掛け看板が下がり、ドアを掴みかけた手は宙で止まる。  帰ろうと歩き出したところで、声を掛けられて立ち止まる。 「やっぱりそうだ。窓から見えたから」 「江藤さん」  閉店後の片づけも終わり、二階の住居スペースへと戻る所だという。 「そうだ、もしよければなんだけど、一緒に飲まない?」  友人達も居るのだけどと誘われ、酒は苦手だと断ろうとしたがやめた。飲んでこの胸のもやもやを誤魔化そうと思ったから。 「はい。お邪魔でなければ」 「良かった。じゃあ、二階に行こう」  外階段を上り、部屋の中へと入ると既に酒盛りは始まっていた。 「江藤さんお帰り。あれ、貴方は乃木先生の担当さん、ですよね?」  声を掛けてきたのは、乃木の部屋を掃除していた青年だ。 「はい。百武と言います」  それから自己紹介がはじまり、掃除をしていたのは真野で、眼鏡の真面目そうな彼は大池、そして高校の時から友人である信崎だ。皆、同じ会社に勤めており、江藤もそこで働いていたそうだ。 「そういえば、脱サラしたって、乃木先生に聞いたことがあります」 「うん。乃木さんは俺の祖父がオーナーだった頃からの常連さんだからね」  乃木の事を思うと胸が苦しい。 「あの、何飲んでいるんですか?」  この苦しみから抜け出したく、興味のない酒に視線を移す。 「えっと……、好き好きに飲んでるみたいだね」  江藤がテーブルの上にある酒を手にとり、ワインとウィスキー、と、説明している途中で、 「あ、そうだ。先生もお誘いしましょうよ!」  と、真野がスマートフォンを取り出して画面を操作しはじめて。 「やめてください!」  百武は大声を上げて止める。 「え?」 「百武君、何かあったの?」  ただならぬものを感じたようで、江藤が心配そうに見つめてくる。 「すみません」  帰りますと席を立とうとしたが、 「百武君、もしよかったら話してみない?」  そっと肩に江藤の手が触れた。 「江藤さん」 「あ……、会ったばかりの奴に言われるのはって思うかもしれないが、君、何か悩み事あるだろう」  信崎という男は、何か話がしやすそうな印象を与える人だ。  そして真っ直ぐに見つめてくる大池と、悪い事をしてしまったと俯く真野。  皆が自分を心配してくれているのが伝わってくる。  戸惑いながらも百武は口を開いた。 「乃木先生の気持ちが、困るんです」  乃木に告白されたこと。お礼という名目でキスを受け入れてしまった事を話す。 「俺は先生みたく顔もよくないし愛想も無い、つまらねぇ男なんです。惚れるとか、おかしくねぇですか?」 「百武君がそんなふうに自分の事を言ってしまったら、そんな君に惚れた乃木さんの気持ちはどうなるの?」 「先生の、気持ちですか」 「そうだよ。君は真剣に向き合ったの?」  どうせ考えようともしなかったのでしょうと言われてしまう。

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