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求愛される甘党の彼_14

 そう、自分は逃げるばかりで考えようとしなかった。だが、自分の事は自分が良く知っているから疑ってしまうのだ。 「百武さんは自分に自信がないんだね」  そう真野に言われて頷く。 「そうか。でもな、今はお前の見た目や性格がどうこうっていうのはおいとけ。素直な気持ちでここに聞いてみるんだ」  信崎が胸を指でトンと叩く。 「素直な気持ちで……」  一人の男としては苦手だと、今でもそう思っているのかどうかを。 「実はね、乃木さんに頼まれたんだ。百武君が喫茶店の前を通ったら声を掛けてやってって」 「そう、だったのですか」  逃げるように部屋を出て行ったといのに、しかも傷つけてしまったかもしれないのに気遣うなんて、そんな優しさはズルい。  こんなに自分を想ってくれる相手など居ないだろう。 「……お酒、頂いてよいでしょうか?」 「では、百武さん、これをどうぞ」  甘党なんですよねと、大池が大量のチョコレートを掌へと落とす。 「チョコレートにはこのウィスキーが合うんですよ」 「そうなんですよね。大池さんから勧められたんですけど、すごく美味しいんです!」 「では頂きます」  甘いチョコレートと胸が焼ける程に強い酒。  一気に熱が上がり酔いが回る。  熱い。  これは酒のせいなのか、それとも乃木のせいなのか。  テーブルに置いたチョコレートに手を伸ばし口の中へと入れ、再び酒を煽った。 ※※※  一度は駅に向かったのだが、途中で来た道を戻り始める。  そして喫茶店の前を通り過ぎ、その先にある乃木の住まいへと向かう。  チャイムを鳴らすと、インターホンから乃木の声が聞こえる。 「のぎせんせー、俺です」 「え、百武君!?」  すぐにドアが開き、中へと招かれる。 「わ、飲んでるの? お酒、苦手なんじゃなかったの」 「えとーさんに誘われてぇ」 「とにかく中に入って。お水持ってくるから」  ソファーにもたれて、シャツのボタンを緩める。  すぐに冷たい水を手渡されて、それを一気に煽った。 「どうしたの?」 「いくら考えてもわかんねぇんです」  コップを持ったまま乃木を見上げる。 「ここに聞けって言われて」  トンと胸を指で叩き、へらっと笑みを浮かべる。 「誰に何を言われたんだ?」 「えっと」  名前を言おうとすれば、 「何故、うちにきたの?」  とすぐさま言われ。  乃木の表情はとても複雑なもので、自分の訪問に困惑している事がみてとれる。 「先生にキスされる度に困るんです。それに、以前の様な関係に戻ればいいだけなのに、戻り方すら解らない……」 「それって……」 「だから、戻れねぇなら先に進もうかと」  手を伸ばし、乃木の頬へと触れれば、 「それって、抱いてもいいって事?」  と手の上に手を重ねてきた。 「気持ちのはっきりしねぇ、こんな俺なんかで良ければ、なんですが」  背丈は同じくらい。顔を近づけるだけですぐに唇が触れ合う。  だがその唇は重なり合うことなく、頬に触れていた手も下へと下ろされてしまう。 「先生」  拒否られた。  その事に、心に何かが突き刺さったかのように痛む。  だが手は今だ握りしめられたままで。どうしてというような顔で彼を見る。 「……シャワーを浴びて、一度、冷静になっておいで。それでも気持ちが変わらなかったら、寝室に行こう」  そのまま手を引かれてバスルームへと連れて行かれる。  中へと入ると乃木は出ていき、百武は服を脱いで少し低めの温度にしシャワーを浴びる。  逃げ道を作ってくれている。  酔った勢いであったのは確か。だが、それだけじゃない。  素直になれ、呆気ないほど簡単に気がついた。自分の気持ちに。

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