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「よりにもよって、りっくんが、オレを可哀想って!? よりによって、お前が?」
思った以上に柚陽 の怒りは跳ね上がった。陸斗 の呟きは、柚陽の地雷を踏み抜いたのかもしれない。
突然柚陽が大声をあげた事で、そこにいた生徒の何人かは柚陽たちの方に視線を向ける。陸斗と柚陽の間に「なにかあった」と悟っている人間は少なくない。それでも目線を向けた彼等は、あの大声を出したのが柚陽だと分かって大なり小なり、驚きを浮かべている。
……ちらっと見た中では、納得してるような顔もあった気がするっすけど。そこまで驚かなかったとはいえ、声を荒げた柚陽を目の前にするのは初めてだったし、急に大声をあげられれば、誰だってびっくりする。多少の覚悟をしていても、だ。だから周りをまじまじと凝視するだけの余裕はないけれど。
柚陽の怒りは叫んだくらいじゃ収まらないようで。中にはぼうぜんとして自分を見ている人間もいるっていうのを、認識してる余裕だってないようで、「よりにも、よって!!」忌々し気に吐き捨てて、ガリッと親指の爪を噛み締めた。
「港 や先輩が近くにいるってだけでも、オレはずーっと、ずっと腹が立ってたのに。いつかアイツ等から奪ってやろうって、壊してオレのものにするんだって思ってたのに。突然ふらっと出てきて、海里の心をりっくんは根こそぎ盗んでいった!! それだけなら良いよ。そっちの方が壊すの、楽しいから。でも、でもお前は、海里 のこと、どーでもよくなったように見せていたのに、結局オレのこと、邪魔して! 邪魔して邪魔して!! それでオレに可哀想、だって!? オレが海里の事好きなの知ってて、余裕かよ?」
はあはあ、ぜえぜえと。肩で息さえしながらも、まだ叫び足りないのか、スゥ、少し離れていても呼吸音が聞こえそうなほど息を吸い込んだ柚陽に先んじて、
「だからそういう可哀想でもなければ、同情でも、嫌味でも、ましてや余裕ぶってるつもりでもないっすわ。つーか、余裕なんてないっす。アンタが言ったんでしょ? シたことは同じでも、アンタとオレには根本的な違いがある、って。オレの方が絶対、顔向けできない事をしてるんだから、余裕なんてないっす。ただ、それでもアンタは可哀想なんすよ」
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