413 / 538

愛を持って振り下ろせよ

「オレはね、自分の愛し方が正しいと思ってるよ。他の人はおかしいって思ってる。だけど、りっくんや…………まあ、すっごく、すっごーくシャクだけど!? 海里(かいり)がりっくんに向けてる愛を、一応、知ってはいるつもりなんだぁ。好きな人を絶対幸せにしたくて、そのためなら邪魔なものをぜーんぶ壊せちゃうりっくんと、好きな人の幸せをひたすらに願ってる海里。うん、やっぱオレにはわかんないんだけどねぇ」  改めて他人に、それも柚陽(ゆずひ)に指摘されるというのは気恥ずかしいし、何より胸が痛い。本来であれば陸斗(りくと)が壊そうとするべきは柚陽だったはずだ。にも拘わらず、柚陽にあっさり騙されて、海里を壊してしまったのだから。  その愚かさは、もはや、他人、特に柚陽にとっては滑稽でしょうがなかったに違いない。  それでも陸斗にとっては、もちろん、笑いごとなどではなくて。改めて指摘された事で自然、現状なんて文字通り「どうでも良い」というような認識で、ただただ自分がしでかした事への罪悪感に思わず唇を噛んだ。  そんな陸斗に柚陽はすぐ気付いた様で、くすくす笑いながら「責めてもないし、おちょくってもないよぉ」なんて、まるきり信じられないことを口にしたけれど。 「だから何だっつーんだよ! そもそも陸斗や海里の考えの方が普通で、お前の方がおかしいだろ!!」  ヒュッ、と。刃が空を切る音が聞こえた気がした。完全に我を失っている。まだ目は正気を保っているけれど、怒りに支配されているし、「辛うじて」といった感じだ。  このままじゃ誰彼構わず襲ってしまいかねない。そんな隼也と対峙して尚、柚陽から微笑みは消えない。あくまで「おちょくるような」ソレだけれど。 「じゃあ、お前の中でオレがおかしい、って仮定しよっか! でもね、お前の中でオレがおかしくても、オレの中でオレ以外がおかしくても、1つだけ確かなことがあるんだぁ」  柚陽が立てた人差し指が、空気をかき混ぜるように、くるくると動く。少しの間そうした後で、その名の通り柚陽はその指先を隼也へと向けた。  指先と刃先。どっちが殺傷能力に長けるかなんて、いちいち考えるまでもない。しかし、それでも、柚陽が向けた指先には確かな威圧めいたものがあった。それは傍観者と相成った陸斗にも冷汗を伝わせ、ほとんど我を失っている隼也にも思わず息を呑ませるほどに。

ともだちにシェアしよう!