1 / 38

第1話

東城の部屋には大きなリクライニングチェアがある。 黒い革張りのチェアで、身体を支えるクッション部分は分厚く安定感がある。長身で体格のよい東城が身体を預けられる大きなリクライニングチェアだ。 彼が自分の部屋で過ごすのは、家に広瀬がいないときだ。デスクの椅子に座ってプライベートの仕事をこなしている。時々、リクライニングチェアに身体をあずけ、サイドテーブルにコーヒーの入ったマグカップを置き、書類を読み込んでいる。 広瀬が家にいるときには基本的に自室にこもったりはしない。リビングに書類をもってきて広瀬に話しかけたり、ちょっかいかけたり、仕事をしたりを忙しく、器用にこなしている。 だから、広瀬にとってリクライニングチェアは、東城の部屋にあるなあ、程度の認識だ。

ともだちにシェアしよう!