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第1話
「渚ー。ご飯食べいこー」
「今日のAランチは渚の好きなオムライスらしいですよ」
「なぎなぎー、僕があーんしてあげるー」
「えー僕があーんするー!」
会計に副会長に双子書記がひとりの生徒を囲んで生徒会室を出ていった。
楽しげな声はドアが閉まると同時にシャットダウンされる。
「……」
残されたのは生徒会長である日向千史 、この俺だけだ。
「……」
シンとした室内で俺は黙々と資料に目を通し続ける。
ミスがないかをチェックし終えようやく資料を閉じたところでちょうどポケットに入れたスマホが振動しだした。
メールの受信を知らせるもので見れば友人であり風紀副委員長三宮和佐 だった。
開いたメールには写メが添付されていて。
『食堂なーう! 渚タソとその取り巻き生徒会メンバーズなーう!』
明らかに隠し撮りでさっき出ていった生徒会の面々とあいつらが喋りかけていた、つい2週間前この学園にやってきた転校生の緑里渚 の姿が映されていた。
「……」
そのメールに返信することなく、代わりに俺は和佐の名前を表示させ電話をかけた。
1コール、2コール……6コール目でようやく繋がる。
『あーちさっちゃん? ごめんねー、人いないところに来たからさー』
普段はクールだと言われている和佐の間延びした声。
「……」
『ちさっちゃん? 生徒会室にひとりなんでしょ? 言いたいことあるならいいなよー。ほら』
幼馴染である和佐に促されて俺は息を吸い込んで叫びたい衝動にかられ―――
「……」
呟いた。
『え? なにー!? ほらー、ちゃんと大きな声で言いなって!』
「……も」
『はいはい! もっともっとー! 全校生徒の前でカッコよく俺様然として声張り上げてるちさっちゃんなら言えるって、ほらほら!』
「……れも。……俺も」
ひとりの生徒会室。
しーんとした生徒会室。
俺は、俺は、俺は―――スマホを握りしめて絶叫した。
「お、俺も渚くんと昼食行きてぇええよおおおお、チキショーオオオオ!!」
叫んだ瞬間、寂しさに涙がポロリこぼれおちた。
***
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