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第2話
ところかわってただいま和佐の部屋。
全寮制のうちの学園は生徒会役員と風紀委員の委員長副委員長には特別フロアの個室が割り当てられている。
同じフロアにある勝手知ったる和佐の部屋で俺は本日のランチAセットのテイクアウトを食していた。
今日は土曜日で午前中少しだけ生徒会室に立ち寄っただけだった。
午後の予定はなにもなく、和佐がテイクアウトしてくるからと俺はひとり寮へと戻ってきたのだ。
「しょーがないよ。緑里と副会長たちってもともとの知り合いなんだしさ」
「……」
生徒会の俺以外のメンバーは俺と同じく中等部からここの生徒。
なのにあいつらは中等部のころしょっちゅう学園を抜け出し夜遊びをしていたらしい。
そのときに知り合ったのが緑里渚で、なんとやつらはチームというものを作って有名だったらしい。
「俺だっていま一緒にチームなのに……」
生徒会というチームで同じ仲間なのに!
「……まぁそうだけど。そんなに緑里と仲良くなりたいなら話しかければいいのに。いつも生徒会室来てるんだよね、緑里」
「……来てる……けど」
二週間前緑里が転校してきて、副会長たちは渚と再会したらしい。
それから渚はしょっちゅういやほぼ毎日生徒会室に来ている。
運動会が5月、文化祭が9月初めにある学園はいまは暇な時期だ。
生徒会の仕事も別段忙しくない。
副会長たちは生徒会室に来てその日の仕事をさっさとこなすと渚とともに出ていく。
一般生徒の渚が生徒会室に入るのはあまり良しとされないが……お茶の用意をしたり雑用したりと手伝ってくれる……から別にいいんだが。
俺が二週間の間に渚と喋った言葉と言えば、
『会長さん、お茶ここに置いておきますね』
『ああ』
なんていう味もそっけもないものだ。
勉強もそうだが一度集中しだすと周りのことが頭にはいってこないせいで、渚が声をかけてくれても反応が遅れてしまう。
本当は、
『渚君ありがとう。キミの淹れてくれるお茶は本当に美味しくて疲れが吹き飛ぶよ。よかったら俺の専属―――』
などという気の効いたことを言いたいが言えたためしがない。
「ちっさちゃんて口下手だもんねぇ。間も悪いし」
「和佐。お前それはけなしてるのか」
「いやぁ、俺的にはトロくて可愛いけどねー。出来の悪い弟を見てるようで」
「トロくないぞ」
「……そうだねぇ」
「だがさすがにまったく会話をできてないのは俺自身ダメだってわかってる。もっとアグレッシブに攻撃しなきゃいけないってこともな」
「アグレッシブねぇ……。つーかさぁ、緑里って男イケんの?」
「……は?」
「いや、うちの学園ってほら特殊じゃん。親衛隊あったり顔なんかで役員選んだり、バイホモ蔓延してるしさ。でも緑里ってこっち来たばっかりだしさ。別に染まってないでしょ。そもそもちさっちゃんだって――」
これが初恋でしょ。親衛隊長の鷺坂ちゃんが知ったら泡吹くよー、とかなんとか言ってるが耳に入ってこない。
いまはそれどころじゃない。
そういやそうだ、俺以外の生徒会役員たちが揃いもそろって浮名を流しまくってるものだからすっかり俺も感化されてたが一般的には男女のカップルが普通なわけで……。
「ど、どうする?」
「どうってねぇ。まー副会長たちの友達ならある程度の免疫はあると思うけどなー」
「……」
「とりあえずは緑里と仲良くならなきゃだよねー」
「……そ、そうだな」
渚が好きらしいオムライスを頬張りながら、いかにして渚の心を掴むかを必死で考えていった。
***
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