36 / 36

35、迎え

ブレイクタイムを楽しんだ後は薬草の調合(と言っても任されたのは簡単な計量のみ)を手伝いながら興をそそられる薬学の話もして貰い、夢中になって聞いている内に、いつの間にか外は暗くなり始めていた。 「そろそろ迎えが来る頃かなぁ」 カースィムがそう言った矢先に、来訪者を知らせる鈴の音が鳴った。 「わ、ホントだ」 「噂をすれば何とやら、だね」 そこで待ってて、と言い残してカースィムが玄関へと向かった。 「いらっしゃい、今日は二度目だね」 「ええ。うちの奴隷の面倒を見て頂きかたじけない、カースィム殿」 「面倒どころか大助かりだったよ。君は相変わらず優秀な奴隷を見つけるのが上手いね」 どうやってあんな子を見つけたのかと尋ねるが、役に立って良かった、とファサイルはお茶を濁す。 「まぁ良いや。取り敢えず上がってよ、お茶くらい出すし」 「有難いお言葉ですが、この後予定がありますので」 「残念。相変わらず忙しそうだね」 「まあ、陛下が留守な分仕事が回って来ますからね…」 「僕と真逆だよねー 。御抱え医師なんて陛下が城にいないと仕事は無いようなものだし」 その分趣味という名の副業に集中出来るから、有難い話ではあるけれど。 そう言って笑うカースィムとは対照的に、ファサイルの表情は硬い。 「ったく、健康なのは何よりですけどそろそろ帰って来て欲しいものです。そもそも魔獣退治など、わざわざ陛下自ら参加する必要はありませんのに」 「仕方ないよ。あの人は戦うのが生き甲斐なんだし、下手に規制すると今度は聖戦に熱を上げなさるでしょ」 「本当に。これ以上領土を広げられても内政の整備が追い付きません」 ファサイルがはあ、と一際深く溜め息をつく。 「それはともかく、ラヒームは?」 「ああ、奥で待たせてる。帰るなら直ぐ呼ぶけど……」 そう言って振り向いた先の、開けっぱなしになっていた扉の奥に見えたものは、、 「ラヒームッ!?」 今にも落下しそうなほどグラグラと揺れている小瓶に、爪先立ちになって手を伸ばす、ラヒームの姿だった。

ともだちにシェアしよう!