1 / 18
第1話
肩からずり落ちたボストンバッグをしっかりと掛け直し、小春日和は古めかしい外観の建物を、圧倒されながら見上げた。
4月から通うこととなった学舎、紫水鳳華学園は、明治時代から続く長い歴史のある高校だ。
正面入り口からすぐ、補修工事を繰り返している旧校舎、新しく増築された本校舎があり、その裏側に、専心寮という学生寮がそびえ立つ。
旧校舎と同様に明治時代に建てられ、鹿鳴館風の洋風建物で、八角の柱を八角形に配置した腰屋根のついた玄関ポーチは、一見すると博物館のようだ。
聞いた話によると、重要文化財にもなっているということだったが、これからの新生活に期待を抱く若者にとっては、あまり関係のないことだった。
「これから、ここで暮らすのかあ。なんだか年季が入ってる。虫とか出たら嫌だなあ」
などと、趣のないことを呟きながら、立て付けの悪い玄関扉をゆっくり開き、そっと中に踏み入れる。管理人の初老の男性に部屋の鍵は預かり済みで、今日は入学前の入寮準備の日なのだ。
ともだちにシェアしよう!