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奥手な君①
躰が熱い。熱い。熱い。
「お客さん!?お客さん!大丈夫ですか!?お客さーーー」
声が遠い。躰が熱い。苦しい。どこかしこも熱を持っているようだ。触るな。触って、触るな、触って、触るな、触って、触って触って触って。
どうしてこんなことになったんだろう、店長さんの声が聞こえなくなると同時に目の前が真っ暗になった。
*
目が醒めると真っ白な天井が見えた。思わず飛び起きて周りを見ればどうやら病院らしい。
「…いったい、俺は……」
何か治療をされたのか、着ていたはずのジャージは病衣に変えられ、昨日まで俺を悩ませていた動悸も、躰の熱さも、…触ってほしいという要求も、ない。
しかし何故かありえないところ、尻が、痛い。
「あ、垣田さん起きましたか? おはようございます」
「ヒッッッ」
ガラリと扉が開くとすごくカッコイイ男の人が俺に声をかけてきた。
…俺はといえば、声をかけられたのなんていつぶりか分からないような状態で、怖くて、彼が怖くて、布団をぶわりと頭までかけて丸くなった。
「あの、垣田さん…?」
「ヒッ!すみませんすみませんすみませんびっくりしてしまってすみませんすみませんすみません」
ああ、ああ、どうしよう、困ってる。でも俺も困っている!!!
ここがどこかも何があったとかどうでもよくなってきた。それよりもあんなカッコイイ、人生勝ち組!みたいな人と目があったら、死んでしまう!!!
なんとか早口で小声だが謝れたからどうかはやく居なくなってくれ!
「ああ、驚かせてしまって申し訳ありません。私、垣田さんの担当になりました鈴村と申します」
「た、担当…?」
「そうです。垣田さんは昨日倒れられまして、命の危険がありました。どうにか助けることができましたが、まだ予断を許さない状況です。ですから私が担当としてつきっきりでお世話をさせていただくこととなりました」
「命の、危険…!?」
布団をかぶったまま聞いていたが、自分はどうやら相当危ない状況だったらしい。
人と関わることが嫌で、痛いことも嫌いな自分が、病院に来なかったのが悪いんだ。思えば数年間もこの症状を放っておいたのだ。何があってもおかしくはないだろう。仕方がないことだ。
それよりも、
「え、つきっきり…?」
「はい」
「むっ…無理ですーーー!!!大丈夫ですもう大丈夫ですむしろもう退院しますさせてくださいいいい」
こんな人がつきっきり!?俺みたいなゴミ屑のような人間に!??
ありえない申し訳ないそんななかで生きていけるわけない。
「…それは了承しかねます。先程もお伝えしましたように、垣田さん、まだ貴方は予断を許さない状況なのです」
「うう、でも…」
「何か私に落ち度がございましたか…?」
「えっ、そんなのないです!」
「では、何故そのようなことを仰られるのでしょうか…」
布団越しに伝わる、哀しい雰囲気。なんで俺なんかに、俺なんかのためにそんな声を出すの…。
「…貴方が、というか、人全般が苦手なんです……だから、人に関わりたくないというか、」
「それはもう無理ですよ、垣田さん」
近くで聞こえた声にびくりと肩が震えた。はっきり、すっぱり、しっかり、澄んだ声が耳元で聞こえた。脳内で処理する前に布団を持ち上げていた手をゆっくり握られた。
「ひゃあぁ…っ」
その瞬間、電気のように流れる快感。昨日まで俺を悩ませていた最大の最悪の症状。
「な、んでぇ…」
「ね? わかりました? まだ、治ってないんですよ。そしてこれを治すにはね、人が関わらなければ、触れなければならないのですよ。」
ぎゅう、と先程よりも力を込めて手を握られた。びくびく流れる快感。
「そろそろ注射の効果もきれる頃でしょうし、また躰が熱くなってきたのでは?」
「この、病気って…なんなんですか…?注射って…?」
「ふふ。そうですよね、知りたいですよね。貴方の病気は精子欠乏症と言って、精子を体内にいれないと最悪死に至る病です」
精子欠乏症?体内に入れる?なんだそれ???理解ができない、したくない。
「性交渉をしない、童貞のまま30歳を過ぎると魔法使いになる、なんて都市伝説はご存知で?」
「…はい」
「30歳を過ぎても映画のような魔法使いにはなりません、もちろん。でもね垣田さん、40歳を過ぎると精子欠乏症という病気になるのです」
もちろん全員ではありませんし、この事実さえ都市伝説のように扱われてはいますが。と、鈴村さんが言った。
そんな、そんな、そんなー…
確かに厳格な父と母に育てられ、兄達にいじめられ、友達もできなかった俺は小さい頃から人が苦手だった。それに加えて両親がプロレスラーだったため、不向きだと誰もが知りながらも鍛えられたこの躰も原因だったろう。今でも悲しき習慣として残るトレーニングと、在宅デザイナーという出会いのない仕事柄も影響してセックスはもちろんお付き合いすらしたことがない。…一番は人が苦手ですぐ逃げてしまうこの性格だろうが。
「この病気の原因は未だ分からないのですが、治療法は発見されたのです。軽い症状であれば薬などでも対応できるのですが…垣田さんのように重症の方は、」
「注射、ってことですか…?」
「はい、正解です」
注射!!痛いし大っ嫌いだけども!この病気がどうにかなるなら頑張れる気がしてきた!むしろ未だに傍にいる鈴村さんに離れてもらうためなら我慢できる気がしてきた!!!
「ただ普通の注射ではないのですよ」
「え……」
「垣田さん、起きて痛かったところはありませんか?」
楽しそうな鈴村さんにの声に、嫌な汗が額を、首筋を、背中を伝う。
言いたくない。痛かったって言いたくない。ごまかしたい。ごまかせないのなんて、知ってるけれど。
「ふふ、どうやら分かってくださったようで」
「そうです。そこに注射をするのです。躰が一番欲しがっていて、必要なお薬を」
「私のペニスを垣田さんのアナルに入れて、射精しないといけないのです」
「昨日は緊急でしたので、座薬を勝手に致してしまいましたが、本日はきちんと同意をしていただきたいのです。座薬でなく、私に治療をさせてくださいませ?」
声が、全部遠く感じた。むしろまた気絶させてほしい。
「…ッ、いやだぁ…!」
布団を押し上げられ、鈴村さんの手が差し込まれる。
鈴村さんの手はなにが楽しいのかすね毛の生えた足をゆっくり撫でながら俺の逸物を壊物のように触った。
病衣を太ももの際までたくし上げられてもはや服なのかすら怪しい。ただただ顔など見せられないと力を込めた手に、上半身を布団にくるまれて下半身を露出しているなんてすごく滑稽だと気づく余裕はもちろんなかった。
「どうしてです?気持ちいいでしょう?」
「ひっ、やめ、」
気持ちいい気持ちいい気持ちいい、そんなの決まってる。優しく触られるだけでビリビリと電流が流れるように快感が走る。
数ヶ月前からずっと欲していたものだ。だが自分でオナニーをしてもこの劣情は治らないのだと知ってからはひたすらに快楽地獄だったので、最近は触ることをしないようにしていた。
久しぶりの刺激に体が跳ねる。
「…うあっ、なに、なにそこぉっ」
今まで排泄器官だったところに入ったなにかに比べものにならないような快感が走る。
「ふふ、ここまで柔らかいと痛みはないでしょう? いいんですよ、気持ち良くなって。これは治療なんですから」
躰が熱い。触ってほしい。この熱を治めてほしい。違和感なく呑み込んだそこで、鈴村さんの指らしきものが動く。
「でも本当によくここまで我慢しましたね。全身が性感帯になったように、苦しかったでしょうに」
「はああ、やめ、そこ、そこぉっ!やめろよぉ…」
「いいんですよ、気持ち良いと受け入れて。これは病気なんですから」
「いあっっっ!なんだっ、なんだよそこっ、ふぁ…さ、さわ、ないでぇっ」
「あ、ここですか」
嬉しそうな鈴村さんの声。今までと比べようのない快感に身体が跳ね、生理的な涙が次々に零れ落ちた。
思わず身を委ねそうになる快感と戦っているうちに、いつのまにか入れられている指も増え圧迫感さえ快感になる。
「もうそろそろいいですかね」
入れますねー、それは独り言のような、確認のような小さな呟きだった。俺は聞きなおす余裕も無く、指が抜かれる快感に震えているなか今まで使ったことのない蕾に経験したことのないものすごい圧迫感。そしてビリビリと身体を駆け抜ける快感。
「あああっっっ」
「ふふ、半分くらいっ、入りましたよ…あとちょっと、頑張りましょうね」
「ひっ、むりっむりぃっ抜けよおぉっ…!」
「大丈夫、ほーら、ゆっくり、んっ、息してください?」
じたばた暴れてみるものの、まったく力が入らない。どう考えたってゴリラ体系な俺と細身な彼なら勝負の行方は分かり切ってるはずなのに。
ただひたすらに言われた通りにゆっくりと嗚咽をあげながら呼吸をすることしかできない。
「ひっ、ぃい、ふ、ふううぅ…っ」
「上手ですよ、ほら、もう飲み込めました」
息の詰まった優しい声がかけられる。それと同時にお尻に知らなかった、いや知りたくなかった彼の陰毛の感触がすごくリアルに伝わった。中の熱量も、圧迫感もすごいのに変なとこ気になる俺はもしかしたら冷静なのかもしれない。というかこんなこと考えてないと意識が今にも途切れそうだ。
「垣田さん、動き、ますね?」
「やだっ、抜けっ、抜けよぉぉ…っんひっ、あっア、アアッ、そこっだ、だめ…っ!」
少し前に押し付けられるように動いたとき、さっきと同じようにビリビリと電流のような快感が流れた。ただ、指とは比べ物にならない。
「我慢せずにイっていいですよ」
「やっ、こわ、こわいよ…」
鈴村さんはダメだって言ってるのにそこを重点的に突いてくる。その快感はひとりでシてたときには感じたことがないもので、飲み込まれそうな自分が自分で無くなるような恐さが涙となって溢れた。
鈴村さんは一瞬とまって、ゆっくり
「…垣田さん、大丈夫。なにもこわくないですよ。私がいます」
「え…っ、あっ、う、ダメェッッッ……!」
鈴村さんは俺の頭をゆっくり撫でると優しく囁いた。そして弱いところを攻められ、俺は熱を吐き出すと同時に熱を吐かれ、同時にまた気を失った……。
end?
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