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奥手な君②

また来てしまう、1日1回の地獄の時間が。 チクタクという秒針の音が響く。 「こんにちは、垣田さん」 「ヒッッッ……こん、にちは…」 ガラリと開く扉から現れたのは黒髪にまるでモデルのような長い足に優しげな笑顔を浮かべるイケメン…担当の鈴村さん。 「昨日はよく眠れましたか?」 「………まあ」 「それなら良かった」 眠れたというより治療のあと気絶するように意識が途切れて気づいたら朝だっただけだけど。 出来るだけ会話をしたくないから適当に返す。人と毎日接触することさえドキドキするのに、毎日会話なんてレベルが高すぎる。 入院して数日、鈴村さんは何かと治療のとき以外も部屋を訪れて話しかけてくるから…困る……。 「体の調子はどうですか? 前みたいに熱は無さそうですが」 「あ、ね、熱っぽさはだいぶ良いかも、です…」 ただ何かに触れられるとその熱さはすぐにぶり返し、快感の波に飲まれてしまうのは変わらずだ。 「分かりました。では治療を始めましょうか」 「ッッ、う、しなきゃ、ですか」 「しなきゃですね。まだ完治してないのは垣田さんが一番お分かりなのでは?」 にっこり人の良さそうな笑顔も俺には恐怖対象でしかない。 「そんな、こと…」 「では確かめさせていただきますね」 ゆっくり手が握られた。 それだけでぞわぞわと泡立つような快感が駆け上がり、もっと触ってと縋りたくなる。 「どうですか?」 「…っ別に」 「じゃあ、これは?」 「ゥアッ、んっ、ふ…っ」 握ってた手とは逆の手で俺の腕を優しく手の甲から肩にかけて撫でていく。それだけでもう我慢出来ず声を上げてしまった。 鈴村さんの手はゆっくり鎖骨からお腹へと病衣の上から流れていく。我慢しようと唇を噛んでも漏れる声と、ボロボロと落ちる涙。 鈴村さんは優しく、子供に語りかけるように、治療しましょうね?と言われればもう頷くことしか出来なかった。 「ああっ、は、やっ、ぞこぉっっ…!」 四つん這いの状態でアナルの気持ち良いところを撫でられ、ペニスから先走りが溢れる。アナルの中を掻き回されるだけでも震えるほど気持ちが良いのに、この前立腺というらしい場所に触れられると目の前がチカチカするような快感が襲ってくる。慣らすための段階でどうしても何度も吐精してしまい、薄い精液がシーツをまた濡らす。 佐久間さんが毎日治療するので、注射をより受け入れやすくなった身体は恥ずかしいくらいに次を欲しがる。 抜かれた指に、無意識に揺れる腰を支えられる。触られた刺激にまたイってしまいそうになった。 「イっ…ふ、うう、っ…ァア、」 「我慢せずイってもいいんですよ?」 「…………ぃあっ、あぅ、それっ……やぁぁあッ」 イくとまた快感が広がり苦しいのを嫌というほど知った。だからできるだけ我慢しているのに、佐久間さんは時々、少し意地悪だ。 枕に伏せていた顔をもっと枕に擦りつけ、嫌だという意志のもと黙れば佐久間さんはペニスをアナルの入口にくっつけ入るか入らないかの位置でねぶるように焦らす。 俺はこれが、嫌いだ。 ゾワゾワと背筋を這うような快感に意識を持っていかれそうになる。 はやく、はやく、とアナルがひくひくするのが自分でも分かり逃げ出したい気持ちとは裏腹に挿入てくれと叫びそうになる自分がいるのだ。 「ふふ、これ、好きですよね」 「き、らいっ、や、だァっ、」 「そうですか?僕には…いえ、すみません。意地悪でしたね。いきますよッ」 「 ヒ、ァアアアアッ!!!!」 ペニスという名の注射が挿入され、奥へ奥へと進んでいく。 抑えきれない声と、ローションの水音に肌がぶつかり合う音、色々なものが響き自分の耳さえ犯されているようだ。 「イ、くぅ…イっちゃ、うううっ」 「どう、ぞっ」 「アア…ッッッ」 有り得ない、でも慣れてきてしまった奥に熱いものが流れ込む刺激に快感が止まらない。 ♦︎ 「すずちゃーん」 気を失った垣田さんの後始末を終え、部屋を出ると間延びした声に呼び止められた。 「三木さん、お疲れさまです」 「お疲れさまっ! ねねっ、前から聞きたかったんだけどさ、この人って緊急で運び込まれちゃった人デショ??」 三木さんは垣田さんの部屋を指差しながら小声で聞いてきた。三木さんは垣田さんが運ばれた日非番だったんですっけ。 「ぜんぜーんお部屋からも出てきてくれなくて、見たことないんだよね〜。もぅ4日も経つのにさァ」 確かに。垣田さんは人と接することを苦手としているようだから自分から部屋を出ることはない。 患者さんの情報共有は大事ですよね、とひとり納得してナースステーションへ歩き出しながら垣田さんの言動を思い出す。 「うーん、そうですねぇ。とても自己への否定があるようなのでカウンセリング面では少し時間がかかりそうですが、」 「いやいやそーじゃなくって!」 私たちは病気への治療薬としての仕事と、患者さんたちのカウンセリングも行うのも仕事だ。 彼らが病気になる原因として主に挙げられるのが、社会に上手く馴染めない、人との関わりが苦手、人への興味の無さなどであるからだ。 病気の治療と共に彼らの社会復帰もできるように、というのが指針である。 「…と、言いますと?」 「んー、やーね、わりとムキムキなゴリラさんだって聞きまして」 んふ、とにんまり笑う三木さん。そういえば彼は少しばかり意志が強く口が悪い方を好むんだったか。 よく可愛らしいと評される彼の、時々出る妖艶な笑み。これを魅力という女性は多いのでしょうね。 「残念ですが、三木さんのお好みではないかと」 「えええ~っ!躰はお前のタイプそうだぞって久野さんに言われてたのに…がっくりぃ」 「あはは、どちらかと言うと猫…いえ、ハムスターのような…」 「んー、確かに好みではないかな〜」 最初に部屋に入ったときに布団をかぶってぶるぶる震えていた垣田さん、入るたびビクビクとこちらを伺いながらも拒絶を試みて…うん、怯えて毛を逆立てる猫、というよりはすみっこで丸くなってこちらの様子を怯えながら見ているハムスターのほうがイメージに合う気がする。 震えて怯える垣田さん、自分なんかに構わないでと絞るような声で言う垣田さん、行き過ぎた快感をこわいと言って泣き出す垣田さん…こんな若僧がいうのもなんだが、とても可愛らしい人だ。 「でもなかなか40代でイイ躰の人っていないからなー。ね、すずちゃん、その患者さんの担当」 「代わりませんよ」 「……ヘェ」 思わず飛び出した否定の言葉に自分でも少し驚いたが、三木さんはもっと驚いたように目をパチパチさせてからまたにんまり笑った。 「珍しいね、すずちゃんがムキになるの」 「…いえ、ただ人が苦手でしたようなので垣田さんの精神面を考えての判断です」 「ふぅん、まーいーけど!でもさっきのすずちゃんの目、肉食獣みたいだったよ。初めて見たなぁ~」 「なんですか、肉食獣って」 まぁ、セックスをいただくと世間では言うこともあるので肉食獣は間違っていないのか…それとも物理的に食べるのはあちらなので間違っているのか…うーん。 「肉食獣…はたして私なのか、患者様なのか…」 「あっははは!なにそれっ、すずちゃんおもしろ~いっ」 それとも。 どちらも、なのか。 「でもでもォ、明後日非番でしょ〜?」 「…ああ、そうでしたね」 「明後日楽しみだなぁ〜」 毎日治療が必要なレベル…もちろん自分が不在であれば代わりをお願いするのは当然のこと。 一応、担当制にはなっているが性的な治療がメインなため患者さんが担当を希望したりすることも可能だ。 担当希望の方は非番の日は座薬にすることもあるが、代わりの看護士が担当することもある。それは進行具合にもよるものだ。 垣田さんは重度だからもちろん毎日治療が必要なレベルだ。 「…垣田さんに明後日のこと、説明してきます」 「ん?いってら〜」 くるりと向きを変えると後ろから、僕の紹介よろしくねぇと甘ったるい声がした。 気絶した垣田さんが目を覚ましているか分からない。まずそんな状態での話など好ましくない。 改めて明日行った方が良い。 分かっているのに、どうしてこんなにも足は急いで向かうのだろう。 ……どうしてこんなに、気持ちがざわつくんだろう。 「………明後日、か…」 出番、誰か代わってくれないですかね…って、何考えているんでしょうか。 end?

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