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今宵、甘美な戯れを ※
「なあ、今日飲まねえ?」
不器用な俺の恋人は、セックスしたいときそうやって俺を誘う。
俺はそれに気づかないフリをして、いつもより少しだけ大胆で素直になる恋人との戯れを楽しんでいる。
なっちゃんはお酒が弱い。
初めてそれを知ったのは、なっちゃんがバイト先の店長の家で飲んで帰れなくなったとき。その日偶然電話をしたから迎えに行くことができたけど、歩くのはフラフラだし、何より部屋で二人きりになったときの色気はハンパなかった。
外で知らない奴なんかと飲んだりしたら大変だ。‥なんて心配してたんだけど。
「中岡ぁ!」
案の定、今日もなっちゃんはソッコーで酔った。まだ缶チューハイを半分も飲んでいないのに、既にだいぶ出来上がっている。今日は張り切っていつもよりアルコール度数を1%アップしたからだろうか。
「今日のつまみはなってねえ!」
「あ、スンマセン‥」
「だいたいお前の味付けはなぁ‥」
酔うともっとこう、可愛らしいのかと思ってたんだけど‥口の悪さはいつもの3割増し、オマケに嫌味な教授並みに説教たれてなかなかに面倒くさい。‥いや、そんなとこも可愛いと思ってしまうほど、俺はなっちゃんが大好きなんだけど。
「中岡聞いてんのかぁ?」
話半分に聞いていたら機嫌を損ねてしまったようで、必殺右ストレートが飛んできた。肩とはいえ結構痛い。ちょっとは可愛いところを見てみたいんだけどな。
「ねぇ、そろそろ下の名前で呼んでよ〜」
「‥‥あれ、何だっけ?」
「え?!それひどくない?!」
「あはは、冗談だよジョーダン」
「もー、びっくりするじゃ‥」
「ゆーすけ」
「‥‥‥‥不意打ち‥」
なっちゃんは意外にもお茶目だ。時々こういう意地悪をするから心臓に悪い。‥あと下半身にも。項垂れていると、なっちゃんは俺の顔を覗き込んで満足そうに笑った。くそっ、可愛い。
「あー眠ぃ‥」
‥とここで、大あくびをして急に机に突っ伏すなっちゃん。待て待て待て。まだ飲み始めて一時間も経ってないんですけど!今日はなかなかにひどい。寝かせてなるものか。
「こらー襲うぞー」
「‥‥いいぜ」
そう言って上目遣いで笑う顔はものすごく色っぽい。‥あーーもう!可愛い、無理!
ガオーっとオーバーリアクションで背中に抱きつくと、なっちゃんはケタケタと楽しそうに笑う。‥もしかして俺、踊らされてる?そうだったらなっちゃんは相当な策士だ。
隣人の予定は事前にチェック済み。今日は居酒屋のバイトで深夜1時過ぎまで帰ってこない。時刻は現在、21時17分。
‥ここは素直に策に乗っかるべきだろう。
首筋にキスを落としながらシャツ越しに胸を弄ると、なっちゃんはクスクスと笑って擽ったそうに体を攀じる。相変わらずここはまだ感じてくれる気配はないけれど、あきらめの悪い俺はこのままじゃ終われない。
「ねえ‥一緒に風呂、入らない?」
勢いのままそうお願いしてみると、少し間が開いてなっちゃんは小さく頷いた。
服の上からだと華奢に見えるなっちゃんの体は意外にも筋肉がついていて、そういえば空手を辞めてからも筋トレしてるって言ってたなと思い出し見惚れてしまう。
「あんま見んな」
そう言って背中を向けてしまったなっちゃんに纏わりつきながら、早くも完全に勃ち上がった自身を押し付ける。余裕のない自分に呆れるけれど、それほど俺は、なっちゃんに夢中なんだ。
「なっちゃんこっち向いて」
「なに‥‥っ、ん」
顔だけ後ろに向けたなっちゃんの唇をキスで塞ぎ、右手を伸ばして胸の突起に触れる。指で弾いて、摘んで、引っ掻いて。ぷっくりと膨れたそこを、俺は執拗に刺激した。
「気持ちいい?」
「わかん‥ね‥っ」
そう言いながらも体はびくんと震える。前よりもほんの少しだけ敏感になってきたのかな。‥早く、もっともっと感じるようになってほしい。
「早くベッド行こ」
散々手で扱いておいてちょっと意地悪かなと思いつつも、イくギリギリのところで動きを止めて俺はなっちゃんを急かす。キッと鋭い目つきで睨みつけられるけど、少し潤んだ目がエロくて逆に興奮してしまった。
いい加減に体を拭いて少し強引になっちゃんの手を引く。そのままベッドに押し倒して上から見下ろすと、艶のある黒髪は水気を帯びてさらに情欲的に見えて息を呑む。
俺も少し酔いが回っているのか、今日はいつもにも増して気持ちが先走っているようで、何か言いたげな唇を強引にキスで塞いで早々に舌を絡ませた。唾液の絡む音、合間に漏れる吐息と微かな声。欲に飲まれて理性の欠片もなくなるこの瞬間は、堪らない。
「‥っ、お前‥がっつきすぎ」
「襲ってもいいって言ったのなっちゃんだよ」
「そう、だけど‥」
「‥じゃあ、もっと優しくします」
そう言って乱暴に腕を押さえつけていた手の力を抜いて丁寧に指を絡めると、なっちゃんは少し恥ずかしそうに視線をそらした。
エッチのときのなっちゃんは面白いほど分かりやすい。恋人つなぎとか、下の名前で呼ばれたりとか、意外にもベタなシチュエーションに弱いみたいで、そこがとても可愛い。
「っ‥あ、‥」
耳に舌を差し込むと小さく喘ぎ、そのままゆっくり舌を這わせると必死に声を殺して体を震わせながら絡めた手を強く握りしめる。最近気づいたけど、なっちゃんは多分、左耳が弱い。だから俺は、また意地悪くそこばかり攻めてしまうんだ。
「や、‥ん、中岡‥っ‥」
「名前で呼んで」
「‥‥優、介‥」
酔ってるって分かってはいるけど‥俺も名前で呼ばれるのはすげぇ嬉しい。
「夏生、好き」
わざと目を見つめてそう言うと、なっちゃんは小さく「バカ」とつぶやいてそっぽを向いてしまう。耳まで真っ赤なのは隠せない。
俺の言動でこんなにも一喜一憂してくれるから、もっともっと俺色に染めたくなってしまう。
ローションを纏った指は簡単に中へと飲み込まれて、指の腹でなっちゃんのいいところを少し強めに擦ってあげると、いつもは小さく丸まって快感に抗う体は淫らに仰け反った。
必死に声を殺して理性を繋ぎとめている表情は堪らなく興奮する。早く入れたい気持ちもあるけれど、それよりも今は、なっちゃんの反応をじっくりと見ていたいというのが大きくて、ついしつこく攻めてしまうんだけど、
「もう‥‥もう、いい‥っ」
「うん、ごめんね」
あんまり虐めたらかわいそうかな。
後背位が多かったなっちゃんとのセックスも、最近は正常位ですることが増えてきた。表情を見て息遣いを感じながらのセックスはとても好き。‥なんだけど。
なっちゃんは行為中に声を出すのをひどく嫌がる。いつも俺の肩に必死に噛み付くから、事後はちょっとした流血騒ぎになっていて‥まあ、なっちゃんに傷が付くよりは全然マシだから、俺の肩なんていくらでも貸してあげるけど、やっぱりエッチな声も聞きたいというのが本音な訳で。
根本まで入った指を引き抜いて、代わりに限界まで大きくなった自身を押し当ててゆっくり中へと進んでいく。十分に解れたなっちゃんの中は柔らかくて温かくて、締め付けられる快感に耐えるのに精一杯だ。それはなっちゃんも同じみたいで、手で口を必死に抑えていても時折甘い声が漏れてきて、それは俺の支配欲を煽り立てるには十分すぎた。
いつものように俺にしがみつこうと伸ばした手を掴んでベッドに押さえつけると、なっちゃんは当然のように困惑の表情を俺に向けてきて、それが妙に興奮した。
「や‥離し‥」
「今日は噛んじゃ駄目。声聞きたい」
「‥っ、やだ‥っ」
「夏生の声、聞かせて」
返事を待たずに一気に挿入すると、体を反らして甘ったるい声を上げる。初めて聞く官能的なその声に欲情して、俺は乱暴に腰を振った。
「や‥嫌だ‥‥こんなの‥っ」
必死に歯噛みしながら涙ぐんで懇願するなっちゃんに心の中でごめんねって謝りなから、それでも俺はもっともっと声が聞きたくて。
「大丈夫だよ。全部、お酒のせいだから」
「‥っ、え‥?」
「みんなお酒がこうさせてるの。だから‥我慢しなくていいんだよ」
悪魔の囁きは思いのほか効果覿面で、なっちゃんの鉄壁の理性とプライドは面白いほど簡単に崩れおちた。
今度は先程よりもゆっくりピストン運動をすると、動きに合わせてなっちゃんの唇からは甘い喘ぎが溢れる。
「ふ‥っぁ、ああ‥っ、‥はぁ、あ」
「‥っ、えっろ‥」
普段ならどつかれているだろうセリフだが、今のなっちゃんはそれに気づかないほど快感の波にのまれているようで、体を密着させて奥の奥を刺激するとひときわ厭らしい声を上げたから、俺は何度もそこを攻める。
「なっちゃんこれがいいんだ」
「ひ‥っあ、ぁ」
突くたびになっちゃんの体はビクビクと震え、内側は俺を締め付ける。荒い息遣いと体液だかローションだかもうよくわからない液体の擦れる卑猥な水音が、月明かりの差し込む仄暗い部屋に響いていた。
いつの間にか解けていた手に背中を捕まえられてふと顔を覗き込むと、なっちゃんは目を泳がせて躊躇いがちに口を開いた。
「噛まないから、その‥‥キス、して‥」
‥‥‥‥やっべ、イくかと思った‥。
「いいよ」と200%の笑顔を作って平然を装う。‥って、全っ然装えてないけど‥そんな可愛いおねだりされたら断れないよ。
唇を重ねると、珍しくなっちゃんから舌を絡めてくれた。ちょっと下手くそで不慣れなその動きが可愛くて愛おしくて、大好きだ。
キスしたままピストン運動を徐々に速めると快感は一気に高まって、そろそろ限界が見えてくる。
「すっげ‥きもちい‥‥っ」
「‥っ、も‥イ‥っっ」
なっちゃんの腕に力が入り内側がきゅっと締め付けると、間もなくして俺も全ての欲を吐き出した。
お酒を飲んだ翌日、なっちゃんは決まってこの世の終わりみたいな顔をしている。今日は特にひどくてちょっと笑ってしまった。
「なっちゃん昨日は激しかったね♡」
「‥っ、うるせえうるせえうるせえっ!!」
なっちゃんをからかうとメガトン級のパンチが飛んできてすぐにそっぽを向かれてしまった。あれは夢か、はたまた幻か。そんな風に思いながら後ろからそっと抱き寄せると、真っ赤な耳と背中越しに感じる微熱が確かな事実なんだと教えてくれる。
俺だけが知っている、恋人の秘密。
「大好きだよ、なっちゃん」
「あーーもう‥うるせえっつーの‥」
いつかお酒の力を借りなくても、こんな風にエッチに乱れてくれたらいいのにな。
おわり
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