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キスする理由(京介×葵)

もう0時を回ってる。当然俺の腕の中にいる葵は熟睡中。寝顔を見ながら一服するのはいつからか日課となっている。 暑いのか苦しいのか、たまに寝返りを打って俺から離れようとするけれど、そのたびに葵の体を引き寄せて抱きなおす。そうすると逃げようとしてた割には素直に俺の胸に擦り寄って安心したような微笑を溢す、それがたまらない。 「そろそろ寝るか」 くわえていたタバコを灰皿に押し付けて、俺も葵の隣にもぐりこんだ。俺の腕を枕に眠っている葵は相変わらず落ち着いた寝顔をしている。 「おやすみ」 眠った相手に声をかけるなんて馬鹿かと思うけど、葵にはいつもしてしまう。小さい体を完全に腕の中に閉じ込めると、俺も眠りについた。 が、それも束の間。まだ眠りが浅かった俺は葵が起きたことにすぐ気付いた。 「どうした?」 しがみついてくる様子を見ればいちいち聞かなくても想像がつく。それでも一応聞いてやるとやっぱり葵からは”怖い夢を見た”、そう返って来た。 安心させてやるように背中をさすってやると、絶え間なくこぼれていた涙もおさまってくる。 「葵、もう平気か?」 「ん……あ、のね」 聞いてやると葵は涙目のまま、恥ずかしそうに俺を見つめ返してきた。葵が次に何を言うかなんていうのも俺にとっては簡単に分かってしまうことだ。だからいちいち言わせなくてもいいんだけど、可愛いから葵の口から聞きたい。 「あの…………して、ほしい」 肝心なところが聞こえない。少し目にかかった葵の前髪をのけて顔を覗き込むと、俺から懸命に視線を外しながらやっと葵が口を開いた。 「おまじない」 まだまだ小さな声だけど、これぐらいで許してやる。あんまりいじめすぎるとすねるから、面倒だ。 「おやすみ」 泣き虫でお子様な葵に、もう一度そう言って唇を合わせた。涙が唇まで流れついたのか、ほんの少しその味がする。 ありがとう、も精一杯に告げた葵はきつく目を閉じて俺の首に手を回し、そしてまた少しずつ眠りにつき始めた。今度は朝までの長い眠り。 俺がお前にキスする理由。 お前が怖い夢を見ないように。

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