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第2話・その結果がこれです。

 ☆  果たしてここは本当に都心だろうか。公園から並木道が続き、ひらけた視界の先にそれはあった。  流石は大企業の社長の居住場所だ。日に当たると光沢がはっきりと見て取れる乳白色のマンションは全部で125邸ある。入口で住人に連絡を入れるかキーコードを入力しないとエントランスに続く自動ドアすら開かない。セキュリティーも厳重だ。恐ろしく高級なマンションだということはひと目見ただけでもすぐに判る。  七緒は三谷からあらかじめ言い渡されていたキーコードを入力してエントランスを抜けた。 (たしか社長の部屋は502号室だったっけ……)  七緒は見慣れない高級マンションに臆しながら小さな手を引き、エレベーターに入った。 「…………」  四角い箱の中では長い沈黙が続く。  そういえば、と。七緒は三谷の子供、皐月(さつき)を迎えに行ってからというもの、名乗ったのは名前と三谷の知り合いということだけで会話らしい会話すらしていなかったことに気が付いた。  いや、それどころか目もろくに合わせていないではないか。七緒ははっとして皐月を見やる。細い腕に小さな体。漆黒の髪は父親譲りだろう、艶やかだ。目は大きいが俯き加減で一重なのか二重なのか判らない。細い腕に小さな体は強張っている。見ず知らずの大人が迎えに来たのだ。怖がらせただろうかと思うものの、それでも泣くことも叫ぶこともない。沈黙を守っているのは何故なのか。  七緒は皐月の様子を窺いながら、目的の家に辿り着いた七緒はカードキーを差し込み中へ入った。  流石は高級マンションだ。玄関からキッチンへ続く廊下も広い。手を離せば、同時にぐるぐると足下の方から腹の音が聞こえて振り返る。 「ごめ、なさ」  七緒の視線に気が付いた皐月はお腹を押さえ、小さな声で謝った後に唇を引き結ぶ。これは恥ずかしがっているというよりは怒られると思っているようだ。  皐月には強張った体に少しも笑顔を漏らさない。年頃の子供よりずっと無口で無邪気さがまるでない。これに思い当たるのはただひとつ。   まさかあの社長から虐待を受けているのか。  ふと、七緒の頭に恐ろしい考えが過ぎる。我が社の社長は普段から愛想がない。その上、七緒には有無を言わさず子守りを命じた。彼の様子からしてまあ、たしかに考えられないこともないが、三谷が育児書を持っていた理由がわからない。本当に子供がどうでもいいのなら、そういう書物は見ないのではないか。  七緒は高慢パワハラ社長に苛立ちを覚えながら、一般家庭よりも大きな冷蔵庫を探った。しかしやはりともいうべきか、この冷蔵庫には水やビールといった飲料水以外何も入っておらず、スカスカだ。

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