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第4話
日本より少し離れた孤島の中心に存在している奏歌 学園。
孤島全体が魔法使いの世界を再現したもので、奏歌学園の関係者だけではなく…人間と共に居たくない魔法使いが世界各国から集まり街を作った。
そして光の奏歌月種の結界魔法により何十年も闇の奏歌月種達に見つかっていない。
魔法使い達にとって此処は安全で楽園の島と言ってもいいほど平和だった。
そんな楽園の島の奏歌学園の校舎よりも存在がある別館があった。
その別館は月種 の館 と呼ばれている。
月種の館には生徒会室やその他いろんな設備がある。
月種の館は生徒会と関係者以外立ち入りを禁じられている。
そしてその月種の館に向かって書類片手に走る小柄な少年がいた。
可愛い顔に似合わず、性格は男らしいと噂の奏歌月種の世話係だ。
ズボンのポケットから鍵を取り出し、ドアに差し込み鍵が解錠される音を聞き重いドアを力一杯引き小さな身体を滑り込ませた。
そして他の部屋には目もくれず奥の階段横のエレベーターに乗り込み最上階のボタンを押して一息つく。
数秒経つとドアが開き、中に入った。
最上階フロアは全て生徒会室になっていてエレベーターのドアを開けたらそこはもう生徒会室となっていた。
少年はまっすぐ進み、生徒会長の席に座る男に書類を渡した。
そして男からはお礼の一つもなく睨まれた。
「……遅い」
「はぁ、はぁ…これでも…全力疾走だっ…ての!」
「はっ、俺がこの時間に指定したら一分一秒でも遅れるんじゃねぇ…次やったら燃やす」
「このっ、俺様がっ!!」
別にお礼の一つも期待したわけじゃない、むしろ長い付き合いでお礼なんか言う筈ない事くらい分かる。
けど、もう少しなんかないのかと不満そうな顔をすると生徒会長に無視された。
生徒会長は紙にサインをしていた。
今日の半日ずっとこの仕事ばかりで退屈していた。
生徒会長…鬼龍院 烈火 、火の奏歌月種であり火の王と呼ばれている男だった。
烈火は面倒そうに追加の書類を見ていた。
「……なんでまたこんな時期に外部から入学してくる奴がいるんだよ、入学式も近いのに面倒くせぇ…おい…適当に書いてクロードに渡しとけ」
「はいっ!烈火様!」
「ダメに決まってるだろ、烈火が書けよ」
烈火が近くで控えていた自分の親衛隊に指示すると可愛いチワワのような少年は元気な声を出す。
烈火の言う事は絶対服従、逆らうなんてありえないと教育された優秀な親衛隊達だ。
それを世話係の少年が止めると、談話スペースからテーブルを蹴る音がして会話がピタリと止まった。
そこには眼鏡の奥から冷たい眼差しで見る少年がソファーに座っていた。
世話係の少年はさらに体を小さくさせてプルプルと震えていた。
「……うるさい」
「雪斗様、ごめんなさい」
「何怒ってやがるんだよ雪斗、フラれたからって俺達に当たるなよ」
世話係の少年が謝るが、烈火は茶化すように笑った。
数日前に恋人と別れて荒ぶっているから面白がって烈火は火に油を注いでいた。
今度はテーブルに置いてあり今は床に散乱したボールペンを取り、烈火に向かって投げた。
命中率は高いが烈火は自分に当たる前にボールペンを爆発させた。
烈火は笑いながら、眼鏡の少年は無表情しながら睨み合う。
何だか喧嘩の予感で親衛隊と世話係の可愛い二人はあたふたとしていた。
「フラれたんじゃない、仕方ない事だったんだ…俺が奏歌月種なんかにならなければ、ずっと一緒にいれたのに」
「……何でもいいけど女々しいんだよ、お前は」
副会長で水の奏歌月種である明野 雪斗 は烈火を睨みながらもこれ以上は時間の無駄だと思い生徒会室を出ていった。
その行き違いで、会計で風の奏歌月種の津山 疾風 と書記で治癒の奏歌月種のクゥが現れた。
いつも二人はつるんでいて今日も二人で何処かに行った後に生徒会室に来たのだろう。
恋人かと疑い過去に聞いた事があったが否定された。
親友かと聞いても首を傾げる不思議な関係だ。
面白いものを見るような疾風とは正反対でクゥは無表情だった。
「またかいちょー達喧嘩ぁ?」
「…仲良い」
「おいクゥ、何勘違いしてんだよ」
ケラケラ笑う疾風と疾風の後ろをくっついて歩くクゥは自分の定位置である机に着いた。
烈火は飛び入り外部生の事をすっかり忘れて机を枕にして寝た。
奏歌学園は奏歌月種により支えられていた。
彼らはまだ知らない、本物の指揮者が誰か……
そして物語が動き出す。
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