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《逃避行 第Ⅱ章》一瞬の彼方③

「俺……大日本航空にいてさ。そこで操縦を覚えた」 「昌彦はパイロットだったのか」 「あぁ、南方へも行ったゼ。飛行挺飛ばしてな」 眩しそうに。 昌彦が蒼天を仰ぐ。 「九七式なんて17tもあって、翼を広げた姿は翼竜だ。花形の飛行挺、湊も乗せたかったな」 「乗せてくれ、この戦争が終わったら」 フッと昌彦が笑った。 瞳に映った、あの日の空を消すように…… 「軍の統制下に置かれた今、飛行挺は軍事物資の運搬をしている」 遥か下方 海沿いに見える滑走路は、根岸飛行場だ。 「戦争の後方支援をせざるを得なくなって……特攻隊員も運んでいる」 「そう…なのか」 南方へ飛んでいた頃、飛行挺は人々の笑顔であふれていただろう。 戦争が始まる前は…… 「俺も、乗る事になった」 ………………昌彦 いま、なんて? どこまでも続く水平線の彼方を宿した、瞳 「……赤紙が来た」

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