10 / 24
《逃避行 第Ⅱ章》一瞬の彼方③
「俺……大日本航空にいてさ。そこで操縦を覚えた」
「昌彦はパイロットだったのか」
「あぁ、南方へも行ったゼ。飛行挺飛ばしてな」
眩しそうに。
昌彦が蒼天を仰ぐ。
「九七式なんて17tもあって、翼を広げた姿は翼竜だ。花形の飛行挺、湊も乗せたかったな」
「乗せてくれ、この戦争が終わったら」
フッと昌彦が笑った。
瞳に映った、あの日の空を消すように……
「軍の統制下に置かれた今、飛行挺は軍事物資の運搬をしている」
遥か下方
海沿いに見える滑走路は、根岸飛行場だ。
「戦争の後方支援をせざるを得なくなって……特攻隊員も運んでいる」
「そう…なのか」
南方へ飛んでいた頃、飛行挺は人々の笑顔であふれていただろう。
戦争が始まる前は……
「俺も、乗る事になった」
………………昌彦
いま、なんて?
どこまでも続く水平線の彼方を宿した、瞳
「……赤紙が来た」
ともだちにシェアしよう!