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《逃避行 第Ⅱ章》一瞬の彼方⑤
「どうしてお前が死ななくちゃいけないんだッ!」
機体ごと敵艦隊に突っ込んで……
死ぬんだ
己が命を爆弾にして。
たった一つの命を
捨て石にする
こんな作戦に何の意味がある?
「クソ軍人め!」
軍人のクズ共がッ!
昌彦、お前が死ぬ事はない。
「逃げよう。このまま……」
「なぁ、まだ死ぬって決まっちゃいないだろ」
「死ぬんだよ!お前はッ」
特攻成功率 10%
生存率は……0に等しい。
「こんな馬鹿げた作戦に、お前が命を落とす事はない。俺に任せろ。逃げるツテはある」
「逃げねェよ」
昌彦……
「この分からず屋がッ。死にたいのかッ!」
「湊!唯が見てるッ」
「……昌彦、死んじゃうの?」
目を潤ませて、俺を見上げる唯を抱きしめる。
「ごめん、昌彦は死なない。死なないように説得してるんだ」
「湊」
振り返った瞳
昌彦の双眼は蒼い天球を映していた。
「考えてもみろよ。俺は反戦活動家だ。俺が行かなければ、俺じゃない誰かが零戦に乗る。そして、死ぬ」
「見ず知らずの誰かを死なせないために、お前が死ぬのか?
お前は偽善者だ。
そんなキレイ事で、誰も救えはしない」
「ちげーよ」
口の端に……
刻んだ微笑みは、湖水に浮かぶ月のように怜悧 で、
美しかった
「絶好のチャンスだ。こんな美味しい役、誰かに譲れるかよ」
毅然と見据える双眼に、蒼く燃える火が灯る。
「俺が落とすのは米軍機じゃねェ」
日本だ。
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