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《逃避行 第Ⅱ章》儚き祈り③
お前は、まさかっ
「やめろ」
即座に理解した。
「そんな事をしてなんになるッ。それこそ偽善だ!
キレイ事で戦争は止まらない!」
心臓が痛い。
締めつけられる。
バクバク
不規則に脈打つ拍動が、胸を穿つ。
「お前の命じゃ止まらないんだッ!」
この国は侵されている。
戦争という毒を飲み過ぎた。
正常な判断が失われ、人命は使い捨ての駒にしか考えていない。
『産めよ殖やせよ』だと!
(死んだ命は帰らないんだ)
もう二度と
替わりは、誰もいない
「じゃあ、誰が止めるんだ?」
この戦争を
「お前に止められるのか?湊っ」
止められない。
でも、お前だって
「俺には止められる」
無茶だ。
無謀だ。
「零戦で米軍艦隊に特攻をかける」
「聞きたくない!」
「聞いてくれ!」
「嫌だッ、聞かないッ」
お前がいなくなる話なんて
お前は死んじゃいけない……
ふわり
大きな手が降ってきて
クシャリ
頭を撫でた。
節張った指が頬に触れて、涙を拭う。
……俺、泣いてたんだ。
「聞いてほしい。この世で一番守りたいお前に」
湊……
「聞いてくれるだけでいいから」
あたたかな指が何度も濡れた頬を行き来した。
俺は小さく頷いた。
掌が、濡れた左の頬を包む。
「特攻作戦が続けば尊い人命が失われる。人が死ぬ。その悲しみは心に訴える。どんな演説よりも、鮮烈に……そうすれば上層部も気づくだろう。
この戦争の愚かさに」
反戦活動家としての俺の戦いだ。
「終わらせるよ、この戦争を」
俺が
「お前に戦争のない世界を届ける」
だから……
「お前が渡してくれ」
唯に
「戦争のない世界を、唯の時代に繋げてほしい」
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