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《逃避行 第Ⅱ章》儚き祈り④
戦争を止める手段があるのに講じない。
俺も戦争の毒に侵されているのか。
戦争なんかしたくない!
日本がぶっ壊れてでも終わればいい!
…………けれど
「お前の命を犠牲にして得られる平和のどこに意味があるんだッ!」
俺は、戦争の毒に侵されている。
戦争を止める手段があるのに、否定する。正しい判断ができない俺は、
(平和を望んでいない)
じゃあ、戦争を続けるしかないじゃないか。
酷く惨 い泥沼から抜け出せない。
俺の心は死んでしまってる……
みんな戦争が悪いんだ!
「湊さん、泣かないで……」
腕の中で唯が震えていた。
「そうだね」
唯を抱きしめた。
小さな体に宿る体温があたたかい。
俺たちは今、生きている。
今を無駄にしちゃいけないんだ。
生きている時間を
ブオンボンブゥウーン
「何だ、この音は」
空から地鳴りが押し寄せる。
鼓膜が痛い。
水平線の真っ黒な雲が上昇する。
「違う!」
雲なんかじゃない。
水平線の向こうから、黒い……蟻の大群が増殖する。
墨のような斑点が幾つも幾つも、蒼空に飛び散る。
静寂の空を、黒い染みが覆っていく。
うなり轟かせて。
翳 る空が凍えていく……
B-29
敵機来襲 空襲警報発令
「米軍爆撃機だ」
…………横濱が焼かれる
「昌彦ッ」
操縦桿 を握ったのは、小さな手だ。
「あいつら全部撃ち落として!」
「唯っ」
幼い唯の顔が……
見た事もない憎悪で震えていた。
「あいつらが母さんを殺したんだ!」
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