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第1話
「大変だ、父さん! セイが居ない!!」
「何だって!? 服の裾を離したのか!?」
一番上の息子のウノの声に僕は慌てて回りを見渡した。
大きな市場の中、何かと興味津々な七歳の子供が行きそうな所は沢山ある。
それに物で釣られてどこかに連れ去られる可能性も…。
だから、我が一家の習性はとても有効なのに!
突然だが、僕達一家はジャコウネズミの獣人なんだ。
ジャコウネズミには『キャラバン行動』という習性があって、それは、
『親や子供同士の尾の根元を噛んで数珠繋ぎで行動する』
…という、習性。
ちなみに僕達獣人は普段"尾"は隠している。
特別な人物や状況じゃないと出さない。
これは世界の常識だ。
そして上からウノ、ドース、トゥレ、クアロ、スィン、セイ。全員男な六つ子なのだ。
ちなみに六つ子だけどちゃんと順番が存在していて、一番下の子・セイは少し他よりのんびり屋だ。
「どこに…!?」
焦るな。焦るな、僕! 絶対見つけるんだ!
ああ!! 種族的に小柄なのはしょうがないが、こういう時身長が低いのが悔しい!
僕がキョロキョロ忙しなく見回していると、頭上が陰り穏やかな声が降ってきた。
「セイくん、お父さんとお兄ちゃん達だよ」
「みんなー! やっほー!」
「お前、どこに行ってたんだ…」
周りから頭二つ分は出ている男性に肩車されている六番目の息子…セイ。
「一人でウチの店の布を熱心に見てましてね、それで捕まえました」
「見て見て! スベスベでキレイな布! 六枚貰ったんだよ!」
そう答えたセイの手にはサテン生地の様々な色の端切れが…。しかも全員分貰ったのか。
そんなセイは「肩車良いでしょ!」と言いながら自慢気に僕達を見下ろし、他の息子達が羨望の眼差しを向けている…。
「シエンさん、色々すみません…。お礼に今度ウチの店でご飯おごりますよ! いつでも良いので、都合の良い時に来てください」
シエンさんはサラブレッド系の馬の獣人で、高身長でしなやかな体形がとても格好良い。
鹿色のサラサラの長髪を緩く編んで、焦げ茶の優しい瞳がとっても素敵な人物。
本人は布を扱う商人で、手広くお店も大きいかなりやり手な…僕より二歳下の男性なのだ。
そしてその日の夕方…夕食時で込む前に、シエンさんが僕の軽食屋に来てくれた。
「いらっしゃいませー」
「早速来ちゃいました」
シエンさんはクアロの声にやんわりと答え、彼はドースに案内されていた。
そしてクアロが「父さん、シエンさん来たよー!」と笑顔で報告をしてきた後ろで、ドースが「目玉ハンバーグセット」と注文を受けてきた。
僕は「はーい」と返事をして目玉ハンバーグを作り、特製デミソースをたっぷり、サラダも多めにしてシエンさんへ持って行かせた。
店内はまだ静かだから、彼らの会話が聞こえてくる。
「…身体の為にもバランスって大事…もっと野菜を食べた方が良い…」
「野菜ならここにキャベツがあるよ? 食物繊維はこれでバッチリ」
「シエンさん、そのモリモリ食べているキャベツに食物繊維はそんなに無いんだよー! あはっ!」
「…!!」
あああ…ドースの言葉とクアロの突っ込みに驚いてる。
そしてクアロが笑いながら「サービス」と言って人参とコボウのサラダを山にした小皿を置いてる。
まぁ、いつもお世話になっているし、サービスは別に良いのだけど。
ウチの息子達はこうした客商売を手伝っているからか、愛想が良い。
しかしシエンさんとは他の人達より、距離が近い…懐いている気がする。
…ま、それは僕的にはとても嬉しいんだけどね。
そして…
「―…うん、美味しい」
「だろー?」
「父さんは料理上手…」
…僕は鼻歌を歌いながら使ったフライパンを洗い、続いている会話にほっこりしたのだった。
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