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第1話

 夏と呼ぶにはまだ早い、五月中旬。五月では観測史上初の真夏日が何日も続き、不快指数は九十パーセントを超えた。  学校の敷地内にある、冷房の効いた図書館で中間試験の勉強をしているベータ達を横目に、翔太は人を待っていた。  アルファの翔太にとって、勉強は授業だけで事足りるのだ。予習をすることはあっても、復習や、ましてや試験勉強なんてものには縁がなかった。  平凡な生き物が大勢で右往左往している場所に身を置くのは、かなり居心地が悪い。佐久間(さくま)翔太(しょうた)は、テーブルを人差し指で無意識にトントンと叩きながら、舌打ちをした。  居心地の悪いその空気が、ある人物の登場で一変した。 「待たせたな」  爽やかな笑顔で、翔太の元へ長い脚で優雅に歩み寄って来たのは、一学年上の生徒会会長、結城(ゆうき)紘一(こういち)だ。  生徒会は別名アルファ会と呼称され、学校内のアルファの中で、ヒエラルキーの最上部に君臨するアルファだけで構成されている。  その中でも、頂点の地位である会長を昨年の十月に引き継いだのが、入学して僅か半年の紘一だった。  一気に色めき立った図書館を紘一は見渡すと、人が多いな……ここが一番落ち着いて話せると思ってたけど……そうか、試験期間中だからか……と独りごちた。  紘一は図書館での密談を諦めると、生徒会室に移動するよう翔太に促した。

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