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第18話

 いっちゃん、と呼ばれた本城は、なぜか二・三歩後ずさった。本城の視線は、優斗ではなく、その後ろの治也に注がれていた。まるで幽霊でも見たかのような、恐怖に戦いた表情をした本城は、そのまま脇目も振らず走り去ってしまった。 「いっちゃん! どうしたの!?」  病室から優斗が飛び出したところで、優斗が翔太の存在に初めて気づき、立ち止まった。  優斗のすぐ傍で、病室の扉が閉まる。 「翔太くん……。来てくれたんだ」  優斗を目の前にすると、胸が波立つ。誰にも取られたくない。誰の目にも触れさせず、自分だけを見てほしい。そんな感情が渦を巻く。翔太の気持ちではなく、番としての本能。 「遅くなってすみません」 「ううん。大したことじゃないのにごめんね。ただの発情期。今回はいつもより酷かったみたいで、薬が効かなかったんだ。強い薬もらったから、もう大丈夫」  花がほころぶように笑う優斗だったが、その笑顔に翔太の罪悪感が増した。優斗は自分に負担をかけないように、必死に取り繕っている。発情期だって、今朝気づいていたはずだ。なのに、何も言わなかった。  人は大丈夫ではないときに限って、大丈夫と連呼する。 「んっ……」  優斗が小さく呻いた。 「どうしました?」  下腹部を押さえ、その場でうずくまった。  ふわりと、甘い香りが優斗の身体から発せられた。 「薬が……切れたのかな……」 「優斗ー?」  優斗が呟いたのと同じタイミングで、病室の中から治也の声が聞こえた。なかなか戻ってこない優斗にしびれを切らしたのだろう。  翔太は素早く周囲を確認すると、優斗を横抱きにすると、近くの空室の個室に連れて行き、ベッドに横たえた。 「兄はもうあなたを抱くことが出来ない」  番になると、番以外の相手との性交は激しい拒否反応が起こる。 「顔はね、兄は父似で私は母似だから、全然似てないけれど、声は似てるでしょう? だから、視覚さえ遮ってしまえば、兄に抱かれてる気分にきっとなれる」  翔太は制服のネクタイを解くと、それで優斗に目隠しをした。 「ちょっ……、翔太くん」 「優斗。愛してる」  敢えて治也が、言いそうな言葉を選ぶ。耳元で囁くと、ピクリと優斗の肩が震えた。 「優斗。苦しいだろ? 俺が助けてやるから」  オメガのフェロモンに反応した熱い身体とは相反して、心はスッと冷たくなっていった。

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