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第51話 -優斗編-

 優斗は頭を下げ続けたまま、この数日間を思い起こしていた。  強引に司の車に乗った優斗は、都内の高級ホテルの最上階に位置するスイートルームの、リビングのソファで所在なさげに座っていた。  司は斎を連れベッドルームに姿を消したきり、数時間経っていた。  斎と司を離さなければとは思っているものの、ベッドルームへ踏み込むことは出来ない。  半開きにされたドアからは、斎の嬌声がとめどなく聞こえる。 「アッ……ン。奥、もっと……突いて」 「斎……」  二人の交わる音が、優斗の耳を侵蝕する。発情期で理性を失っているからなのか、斎から司に対して憎しみのようなものは、一切感じ取れない。 「つかさ、ぁっ……そこ」 「ここ?」 「んっ……気持ちいい……」  寧ろ愛しいという感情が、溢れている。何故、斎は司との番を解消しようなどと思ったのか。  ソファの上で体育座りした優斗は、腕でぎゅっと両脚を引き寄せた。  三日後、ソファで眠りこけていた優斗を揺り起こしたのは、発情期が終わった斎だった。 「ん……いっちゃん、大丈夫?」 「大丈夫だ。迷惑かけたみたいで悪かったな」  優斗の横に斎が座ると、優斗は寝ぼけ眼のまま辺りを見渡す。 「司は仕事に行ったよ。俺の相手をしていて、商談を全部日程変更させてしまったから……。悪いことをした」 「いっちゃんは、オーナーと……その……えーと……」  オーナーとの関係性を尋ねようとして失敗した。しかし、斎は優斗が言わんとしている事を理解したのか、微笑んだ。 「司のことが嫌いで、番を解消しようとしたわけじゃない。司のことは愛してる。けれど……番の関係に甘んじてる自分が赦せないんだ……」  斎は司と番になった時を邂逅する。  本城の家に斎が初めて行ったのは、斎が高校を卒業した翌日だった。  本城家と養子縁組が決定していたわけではなく、斎本人が本城家に馴染むことができるかの、所謂お試し期間だった。 『きみが斎くん? 俺は司。今大学一年だから、きみより一つ年上だね』  とても穏やかに司は微笑み、握手をするために手を差し出した。  その瞳と視線がぶつかった瞬間、斎の身体は変調を来した。その発情で合意ではなかったが、司の番となり、子供を身ごもった斎は本城家の養子ではなく、司の配偶者として本城家に迎えられることになった。 「その当時、俺は好きな人がいた。付き合ってはいなかったけれど、俺が二十歳になったら、番にしてくれるって約束してくれたんだ。司と番になって、その人に対する後ろめたさはずっとあったけど、謝りに行く勇気がなかった。司にもその事を伝えられずに、きっとバチが当たったんだ。ある日、階段から落ちた。……その後、目を覚ましたときには、俺のお腹の中は空っぽだった。…………それからずっと、発情期の度に司に抱かれても、俺が子を授かることはなかった……。司の遺伝子を残したいって思うのに……。相手が俺じゃ駄目なんだ。だから、司には俺との番を解消して他のオメガと幸せになって欲しい……」  斎にかける言葉が見当たらなかった。  優斗が何の言葉をかけても、斎の心の傷が癒えることはない。  近くで扉が静かに開いた。 「斎はそんなこと、思っていたんだね」  一仕事終えた司が、ちょうど帰って来た所だった。 「俺は、斎が一緒にいてくれるだけで、幸せだよ」 「司、ごめん……ごめんなさい」 「謝らなくていい……。この間は俺も悪かった。斎に好きな人が出来て、捨てられるんだと思って嫌がらせをしてしまった。……琉生のことも、無理強いして悪かった」  斎を抱きしめ、宥めるように背中をさする司の姿を見て、優斗は無性に翔太に会いたくなった。

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