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第50話

「翔太、このまま何もせずに、処分を甘んじて受け入れることは許可できない。学校側に撤回させるんだ。もしそれが出来たら、今後優斗くんとのことは一切口を出さないでおこう」  父親の最大限の譲歩だった。  しかし、翔太に妙案はなく、父の提案に頷くしか出来なかった。  優斗との関係を継続させるには、退学処分を免れることが絶対条件だ。  ソファーに放置した翔太のバッグから、携帯の振動音が聞こえた。  父親は応答するように目で訴えると、翔太は携帯を取り出した。紘一からの電話だ。 「はい」 「佐久間、今大丈夫か?」  紘一の背後からは学校のチャイムが聞こえた。 「ええ、どうされましたか?」 「さっき秀英高校の校長に、佐久間の退学処分反対の嘆願書を提出してきた。前生徒会の役員全員の署名を集めるのに手間取った。遅くなって悪かったな」  紘一自身も地方の大学へ進学し、前生徒会の役員達も全国に散り散りになっているはずだ。  なのに、こんな短期間で、全員の署名を集めるなど、相当な労力を使ったはずだ。 「私のために、わざわざそんな……」  紘一の優しさに言葉に詰まる。  目頭が熱くなるのを耐えながら、何度もお礼の言葉を口にした。 「みんな、佐久間のことを心配してたよ」  生徒会役員になった当初は、一年の翔太に番がいることに、嫌な顔をする役員も大勢いた。しかし、翔太がオメガの発情の対応を買って出たことや、真摯に仕事をこなす翔太に対して、やがて他の役員達も翔太に協力するようになっていた。 「校長には釘を刺しておいたから、退学処分が下ることはないと思うが、他に手伝えることがあったらいつでも言ってくれ」  在学中、羨望を一身に集めていた紘一だったが、今もその存在は鮮烈だった。  紘一の言葉で、力をもらった翔太は、父親に向き直り、口を開こうとした。  インターホンが鳴った。  モニタに映し出されたのは、久し振りに見る優斗の姿だった。 「誠に申し訳ございません!」  玄関が開かれると、土下座をせんばかりの勢いの優斗に、父親は黙ったままだった。  優斗に対する不信感は、そう簡単に拭えないらしい。 「僕のせいで、翔太くんが大変なことに……」  頭を下げる優斗の背後から、斎が顔を覗かせた。  優斗が玄関の外で謝罪をしたことから、中へ入れなくなったようだ。  斎は父親の姿に視線を向けると、治也を見たときと全く同じ表情をした。 「……いつ、き…………」  同じく相貌を見開いた父親が、斎の名を呼んだ。

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