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第1話
蒼き闇に月が浮かぶ。
その月に凭れかかり、我は帳面をめくっていた。
ある男の名が記された項で、指が止まる。
「む!またもや此奴か。せっかく妻の病が治ったというに、次は己の負債を殖やしおるとは忌々しい。あぁ、此奴もか。なに?この娘もだと?!」
人間共は春だ!連休だと浮かれ騒ぎ
己が健康、自然の摂理を蔑ろにする不心得者は急増の一途である。
実に嘆かわしい限りだ。
こうなれば、実力行使。それが、夜を司る我の勤めの一つでもある。
「……これ、下僕!下僕は居らぬか?」
しかし、いくら呼ばっても、毛の塊は姿を現さぬ。
「おい、何処に消えた?主の命を無視するか?!」
荒げた声に、応えをするものは瞬く星ばかり。
「ふっ、よかろう。久方ぶりに、我が力をみせてくれるわ!」
左手を伸ばし、闇を握り固める。
「ヤマシナ以下382名。深き濃き、眠りへと……今すぐ堕ちよ!」
手の中の数多の小さな球は、対象者の元へと瞬時に飛び去った。
──よし。
次は、躾のなっていない毛玉の探索か。
やれやれ。
我は夢の大地に続く扉をゆっくりと開けたのだった。
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