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第2話

 魔王城の中は清潔感があって、豪勢でありながら過度じゃない。まずそこからして想像とは違った。もっと毒々しい内装を想像していたのに――とは言っても、イシュにこの恐らく応接室であろう部屋に、直接飛ばされたから、他の所は知らないんだけど。  だが、他の魔族の姿は見た。スーザンと言うこれまた超絶美形さんで、薄紫の髪に両サイドに巻き角と言う出で立ちの魔族が待ち構えて居たから。とは言ってもティーセットとお菓子を置いて退室してしまったし、殆ど会話は交わしてない。何故か、イシュがとっても牽制してたし。 「イシュ、僕の事、最初から話してくれない……?」  逆に僕をイシュが騙してる可能性もない訳じゃないんだから、さっきみたいな断片的な説明じゃなくて、順を追って説明してくれる様に頼む。 「そうさな――」  イシュは僕を知る事になったきっかけから話し始めた。それは夢だったらしい。イシュが眠るといつも聞こえてくる声があった。とても強い魔力を持った声は、いつも嘆いてた。何度も聞くうちに魔力の波長を覚えたイシュは、国内外を探した。だが、一向に見つからず、ついぞ、神に打診し、遠見の水晶を手に入れ、異世界にも手を伸ばした。  そして、やっと見つけたのが僕だったらしい。初めて声を聞いたのが十五年前、僕を見つけたのが七年前。そこからは暇があれば僕の姿を見ていたんだとか。あれ? なんかちょっと怖い。  僕は両親と兄の四人家族で暮らしていた。四つ上の兄は、優秀でいつも比べられてた。生まれつき身体が強い方じゃなかったし、学校も休みがちで、勉強も中々ついていけなかったから、小さい頃から勝てるものなんて何もなかったけど。  だから、両親の関心は兄に向いてて、学校を休んでばっかの僕に仲のいい友達なんて、出来る訳ないしで――いつも僕は独りぼっちだった。口には出さなかったけど、いつも心の中で寂しいと嘆いてた。それがイシュに聞こえたのかもしれない。 「魔素のない地で魔力を持っておるのは毒でしかない。さぞかし辛かったろうな、ゲン。こちらへ喚ぶのが遅くなってすまぬ」 「別にイシュが謝る事じゃないよ……?」  イシュの言う通り、僕はあの地で暮らすには、向かない体質過ぎた。その証拠に、こっちに喚ばれてからは、あの辛かった日々が嘘の様に身体が軽い。聖羅国に着いた当初は、もやしみたいだった見た目も、半年をかけて教養を身に付ける合間にやっていた訓練で筋肉も付き、健康的になったと思う。  だからこそ、僕は僕自身を勇者だと思った訳なんだけど――かなり雲行きがあやしい。 「ゲンは何と優しいのだ……! それにしても忌々しい。人族共め」  前半は笑顔で、後半は眉間に皺を寄せ、剣呑な雰囲気で言葉を発するイシュは随分と器用だな――なんて呑気な事を思いながら、イシュが続きを語ってくれるのを待った。だって、まだ一番肝心な部分を聞いてない。 「我が、手順を踏んで、ようやくゲンを喚び寄せ、この城に召喚しようとした瞬間、人族からの横槍を受けたのだ」  こちらの神と交渉し、向こうを管理してる神に話をつけ、僕が憂いを帯びぬ様、それから、どちらの世界にも混乱が起きぬ様にとイシュは行動したらしい。具体的に言うと、僕は向こうの世界では死んだ事になってて、こちらの世界には弾かれない様に神からのお墨付きを貰ったって事らしいんだけど。準備万端にイシュが僕をこちらに喚んでいる最中、聖羅国が世界の扉を開ける事に成功してしまい、僕はその扉に吸い込まれてしまった――と。 「それは、何と言うか……横槍って言うより、横取りかも……?」  だって、聖羅国は実際は異世界召喚なんて出来てなくて、扉を開けただけなんて。聖羅国の人間の誰もがその事実におそらく気付いてないだろうと言うのが、また厄介な所らしい。それって、僕がもし帰らなかったら同じ魔法陣でまた召喚を試みるかもって事? それは問題ないんだろうか?  そんな事を考えてしまった所為で、すっかり僕の頭からは、イシュがなんて言って抱きついてきたのか――いや、抱きついてきた事すら、すっかり抜け落ちていた。これをこの時、ちゃんと覚えていたなら、僕は少し違う未来を歩んでいたかもしれない。

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