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第4話

「弦、我に問いたい事があると聞いたが?」  いつもより早く部屋に戻って来たイシュは、いつも通りに僕を抱きしめて頬にキスをして、僕の顔を覗き込みながらそう聞いて来た。 「あ、うん。笑わないで聞いてくれる?」 「勿論だ、我の愛し子」 「その愛し子って言葉どう言う意味で使ってるの……?」 「唯一無二の存在だと思って使っておるぞ。弦を一目見た時から我は、弦を伴侶に望んでおるのだ」 「本当に……? それならどうしてキス以上の事をしないの……?」  だから僕は、温度差を感じてたんだ――いや、今も感じているからこそ、イシュへの感情に気付かないフリをしていた。もう随分と前から僕は、イシュの事を好きになってる。そもそも二年もの期間一緒に居て、色々と世話を焼いて貰って、絆されない方が可笑しい。 「しても良かったのか……? 弦の世界では同性は性的対象ではないのだろう? 我は、弦に嫌な思いをさせるくらいならば、我慢した方が良い」 「え、我慢? 他は……?」  それは、僕に手を出すのを我慢してるって意味だよね? 他からの供給はちゃんと受けてるよね?  魔力の供給には性行為で循環させるのが一番効率がいいとスーザンが言っていた。それは魔力保有量が多いほど顕著だと。つまり、イシュが一番それが必要な訳で、相手側からしても、イシュの魔力は極上なはずだから、引く手は数多なはず―― 「他で補給しては我慢とは言わぬ。それに弦の魔力を知って仕舞えば、他など到底供給を受けれたものではない」  まさかの受けてなかった。 「弦のいた国では操立てと言う言葉があるのであろ? 我が本気だと知って貰う為に弦に操を立てたまでの事」  確かにあるけど、それは生命維持に直結しないから出来るものだと思う。 「イシュ、体調は? 大丈夫なの?」 「身体はだるいが問題はない。耐えられぬ程でもないからの」 「それは大丈夫って言わないよ! なんでもっと早くに言ってくれないの! バカじゃないの!?」 「なっ……!」  少しくらい僕が喜ぶと予想していたのか、イシュは驚きを隠せない様で、急にあたふたし始めた。そんなイシュの顔を僕は両手で挟んで、イシュの唇に自分のそれを重ねた――  そう言えば、イシュとはもう何度もキスしてるけど、僕からキスするのは初めてかもしれない。 「僕はね、イシュの事が好きだよ。確かに、男同士に抵抗はあった。でも、そんなのはもう、どうでもよくて。僕が悩んでたのは、イシュの僕に対する気持ちが、僕と同じだとは思えなくて、尻込みしちゃってたんだ」  身体だけの関係でもいいから――なんて自分の首を絞める様な気しかしなくて、言えなかった。どうせ、身を任せるなら、僕はイシュからの愛が欲しい。だけど、それを言うのも、イシュの気持ちを知ってからじゃないと言う勇気は持てなかった。本当、僕ってヘタレ。その所為でイシュに無理をさせてるとは思わなかった。僕って馬鹿だな……よく考えれば、毎晩僕と同じベッドで寝てるから、他の相手なんてしてる訳ないのに。 「ごめんね。僕の所為で毎日身体も辛かったよね? そんなに僕の事本気で思ってくれてたなんて思わなくて。僕、自分に自信がなくて、臆病者だから……」  スーザンにお膳立てしてもらえなきゃ、イシュの気持ちを聞けなかったくらいに。 「いや、我がきちんと伝えていなかったのが悪いのだ。弦がスーザンに相談してくれて居らねば、弦が不安に思って居た事など、気付きもしなかった」  驚いて固まってたはずなのに、いつの間にか復活してたイシュは、僕の腰を抱いて膝に乗せる様にしてソファに座り直した。 「改めて言おう。弦、我の伴侶になってくれぬか?」 「本当に僕でいいの?」 「当然だ。我はもう一生、弦しか要らぬのだから」 「で、でもでも、僕は魔族じゃないし、寿命も違うから、そこまで思ってくれなくてもいいんだよ……?」  自分から告白しておきながら、イシュからのプロポーズと予想以上の気持ちに、逆に焦ってしまう。 「もう思ってしまっておるのだから、手遅れと言うものだ。それに、そこは心配しなくても良いと思うがの。それで弦、返事はくれぬのか……?」 「え、えっと、こんな僕でいいなら是非、貰ってください……!」  なんで心配しなくていいの? とか、手遅れって何!? とか聞きたい事は、色々あったけど、僕は、プロポーズに返答する事を優先した。だって、この感じだとまた、イシュにどこか勘違いされそうな気がしたから。

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