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第40話
「あっ、ありがとうございます! いただきます!」
あたふたと頭を下げる洸樹に、マスターは微笑んで。
「今日はふたりで、なにかのお知らせかい?」
隣の隼人もクスクス笑う。
「そうです。稜さん」
隼人が答える嬉しそうな姿に後押しされて。
「俺と、こいつ、いや……俺と隼人、一緒に住むことになったんです」
一気に告げると。マスターは一瞬、きょとん、としていたが。
「そう……それはよかった」
そう言うと、明るい大声で笑い始めた。
「あぁ、やっとか。本当に良かった。隼人、よかったね」
ひとしきり笑い、しみじみと嬉しそうに微笑んで隼人の頭を撫でた。
「……洸樹くん、隼人をよろしくね」
そんな、穏やかでしっかりした頼みの言葉に、洸樹はただ無言で頷いた。
「稜さん、ありがとうございます」
隼人は嬉しそうに頭を撫でられている。
「ふふ、じゃあ俺も隼人の為に最後の仕上げをしようかな」
ふわりと笑うマスターの瞳がとても冷たく見えた。
「隼人、あのストーカーはこちらで処理するからね」
柔らかい声で恐ろしいことを言った。
「……はい、よろしくお願いします」
隼人の答えにマスターは満足そうに微笑んだ。
マスターへの報告も終わり。洸樹は隼人とふたりで、BARの外へ出た。そして、ふぅ、と溜息をつくと。
「あぁ〜、なんか緊張したなぁ。『娘さんを下さい!』って父親に頼む気分だったよ」
「おい、洸樹。俺は男だよ。知ってるだろ? まぁ、稜さんは……親よりも頼ってるけどさ……」
満月で明るい夜は隼人の表情がよく見えた。
「そういえば、初めて洸樹の名前呼んでたな……。認められたみたいでよかったな、濡れ鼠くん?」
クスクスと笑う隼人につられるように笑った。
ふたりで笑いながら、ゆっくり夜道を歩く。
その道程が楽しくて、ふと、隼人の手に洸樹の手が触れた。
「…………」
何も言わずに手を握ると、そっと隼人の表情を見る。
「洸樹、すきだよ」
少し紅くなった頬で、噛み締めるように微笑んだ。
そんな隼人の言葉と表情に。洸樹は大きく息を吸い込むと。
「うん。俺も隼人の事が好きだ。本気で、心の底から、隼人が大好きだ」
全てを吐き出すように言い切ると。握った掌に力が籠る。
「…………顔真っ赤……。ふふ、俺も。大好きだよ。洸樹」
言葉から掌に熱が伝わり。顔を赤くして、ふたりで笑い合う。
あぁ、幸せとはこういうことなのか。と洸樹と隼人はそれぞれの幸福感を噛み締めた。
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