224 / 241
小ネタあつめ!!④
■ごはん食べよう
今日は特に予定も入ってない日曜日だった。
「巽さん、見て見て! このニット似合う? この間セールで買ったやつ!」
昨日の土曜日は巽んちにお泊まりした俺、昨日とは違う服に着替えて、キッチンにいた巽に見せにいった。
「お前、一泊旅行する並みの荷物、時々持ってくるよな」
「だって俺からしたら一泊旅行だもん。巽さんちにはるばる旅行にきてるもん」
「……」
「ねーねー、似合う?」
「似合わねぇ」
「ひでーー!」
腰屈めて冷蔵庫覗き込んでる巽にタックルする、うん、ビクともしないってわかってた、この体育教師めちゃくちゃ頑丈なんで。
「似合う!?」
「昼飯どうすっか」
「チャーハン食べたい!」
「焼きそばにするか」
「俺の意見ガン無視!」
「冷凍むきエビとレタス使うか」
「わー! うまそ! 似合う!?」
「お前も手伝うか」
「うん! 化粧済んだら!」
「それは手伝わねぇって言ってんのと同じだ」
巽はてきぱき準備を始める、俺はダイニングテーブルに持参した折り畳みの卓上ミラーをセットして、ぬりぬり、ぽふぽふ、ぽんぽん、化粧ポーチに詰め込んだお気に入りのコスメでメーク開始。
「よし」
仕上げに巽が屋外フリマでプレゼントしてくれたシュシュで髪結んで、テーブルの上片づけて、さてさて、手伝ってあげますか……。
「わぁ」
キッチンで料理してる巽さん、やば。
片手でフライパン振って塩コショウぱっぱしてる巽さん、やっば。
「……おい、コーイチ、てめぇ何写真撮ってる」
「わ! 目線ちょーだい! もっとちょーだい!」
「……」
「わぁっ、ごめんっ、ごめんなさいっ、すぐ手伝います!!」
写真嫌いな巽にジロリと睨まれた、ひー、殺し屋みたい、でも撮ったけど、巽フォルダに即保存したけど。
「スープとかいらなかったか」
「いいよぉ、俺、がつがつ食べたい……あれっ、チャーハンだっ」
「ザーサイでも付け合わせるか」
「巽さんっ、ビール飲んでもいーよ? 昨日の夜外で食べて飲んでなかったし。オトナ全員、昼のおビール好きなんでしょ?」
「じゃあノンアル一本飲むか」
「ほーい。出しとくね」
「それはガチのビールだ」
「うま! えびレタスチャーハンうま!」
「米粒飛ばしてんぞ、コーイチ」
向かい合って、朝ごはんにしては遅め、昼ごはんにしては早めの朝昼ごはんを食べた。
「味付けって塩コショウだけ?」
「いいや。オイスターソースとシャンタンも加えてる」
「へーーーーー!!」
「前にも作っただろうが」
「何回食べてもおいしい!!」
巽は口元だけで小さく笑ってグラスに注いだノンアルビールをごくごく、ごくり。
うん、ビール飲んでる巽もかっけぇ。
写真撮りたいなぁ。
巽フォルダ、いろんな巽でコンプリートしたいんだけどなぁ。
「おい、すかしてスマホ構えるんじゃねぇ」
ガードがかたいんです、この彼氏……なーんちゃって……でへへ……。
ぱしゃッ!
「えっ? はいっ?」
「おもしれぇ顔してたから撮った」
「そ、そんなぁ、じゃあ俺も……」
「俺のは撮るんじゃねぇ」
あっという間にチャーハンを完食した巽は自分のスマホをじっと見つめた、え、なんですか、急な真顔と沈黙は心臓に悪いです……。
「お前が黒選ぶって珍しいな。でもまぁ、似合ってんじゃねぇのか」
……時間差攻撃やめてください。
……それもそれで心臓に悪いです。
■DVD見よう
キャンペーンでレンタル料金が安くなってた準新作映画。
あんまり集中して見れなかった。
「ん……」
映画の途中で居眠りした巽。
珍しい。
きっと疲れてたんだろう。
そんな素振り、昨日も今日も俺に見せなかったけれど。
俺の肩に頭乗っけて、寝息が聞こえて、ちらって見てみたら……うひぃ……かっこよすぎて緊張するぅ……。
こんな男前、俺が独り占めしちゃっていーんだろーか。
そ、そうだ……架空の女子になりきってどっかのアカウントとって「わたしのかれぴ♪」とかコメントつけて画像発信すべきなんじゃあ……世に広めるべきなんじゃあ……。
あ、嫌だ。
だって、巽、やっぱ俺のだもん、俺だけのかれぴだもん。
女子高の生徒とかバスケ部のコ達とか、他の先生とか、みんなが知らない巽を知ってるの、俺だけでいい。
俺は自分の肩に頭を乗っけてる巽に頬をくっつけた。
短い黒髪。
朝一でシャワー浴びたから、いい匂いがする。
これぞ幸せの匂い……なんちゃって。
はぁ、でもこの時間は確かに幸せだ~……。
■五分後
「し……痺れ……痺れてる……俺の肩、片方死んでる……」
■うちに帰る、ぞ……。
「送ってく」
夕方まで巽んちでだーらだーらしていた俺。
いつもみたいに巽にウチまで送ってもらった。
明日もお互い学校だし、俺なんか宿題ぜんっぜん片付けてないから、ちょっと早めに帰った方がいいかなぁって……。
「あれ? 巽さん?」
それまで混雑を避けて順調に帰り道を進んでいたワーゲン。
でも、いつの間にやら脱線して。
どんどん逸れていく。
「ドライブするか、コーイチ」
定位置の助手席に座ってた俺は巽を見た、巽はもちろん前を見ていた、周りの車のヘッドライトとか建物の明かりが窓の向こうでキラキラ、キラキラ。
「する」
あー、よかった。
巽も俺と同じ気持ちでいてくれたんだ。
まだ離れたくないって。
一緒いたいって。
「夜景でも見に行くか」
「その前に晩ごはん食べたい」
「何にする」
「た……巽さんの作ったやつ、巽さんちで食べたい」
「戻るのかよ」
「い……いちゃいちゃしながら食べたい」
「いちゃいちゃ、か」
巽は低い声立てて笑った。
「悪ぃな、コーイチ」
あれ、おうちごはん、だめですか……だよな、やっぱわざわざUターンするって面倒だもんな……。
「お前また宿題忘れる羽目になるかもしれねぇ」
ほんと、一瞬だけ、ちらって、巽、横目で俺のこと見た。
そんで、俺……もじもじ、内股になってしまった。
「ウチまで我慢できんのか」
「で……できるもん……巽さんこそどーなんだよ」
「できねぇ」
「えぇぇえ」
「一端、その辺に車停めるか」
「えぇぇえ? どーいうこと? お巡りさん来るよ? 写真撮られて流出すっかもよ?」
「女子高教師が路上駐車でまさかのカーセか」
「うわぁ……本人が言ったら生々しい……」
ほーーーんと、俺と巽って、ずっとずっとばかっぷるだなぁ。
これからもずっとずっとばかっぷるでいたいなぁ。
「流出なんかさせねぇよ、もったいねぇ、お前のイキ顔知ってんのは俺だけでいい」
……いや、言い方、もっと別のイイ言い方あるでしょ、緒方せんせい……。
■バイバイしよう
「これなら宿題できるな」
「うう……むり……風呂入ったらすぐ寝ちゃう、これ……」
「おら、コーイチ」
「ほえ……?」
深夜、ウチのすぐ近くまで送ってくれた巽は。
へろへろだった俺の首根っこ掴んで、いきなり引き寄せて、ぶちゅって。
自分が口に含んでた激辛タブレットを舌先で俺の口ん中に押し込んできた。
「眠気覚ましだ」
か、辛い、辛いし、いきなり過ぎて心臓バクバクしてるし、全身ぼふって熱くなったし、これ、巽エナジードリンク効果……?
「ほら、帰れ」
「うう……帰るもん……」
あーあ。
もう何っっ回も経験してんのに、毎っっ回、さみし。
「ちゃんと宿題やれよ」
「ッ……こ、こんな時間まで未成年付き合わせたくせに~……!」
「そうだな、ごめんな、お前のこと突き放せない不甲斐ない大人で」
「……急に素直になられたら帰りづらくなんじゃんかぁ……」
「帰れよ」
巽に、髪、わしゃわしゃされて。
女装したまんまの俺は車から降りて見えなくなるまで巽のこと見送った。
ごっくん
あーあ。
次会ったとき、今よりもっと、巽のこと好きになってそーだ。
■デートしよう
「遅ぇぞ、コーイチ」
あ。
やっぱり前よりもっとめちゃくちゃ好きだ、テヘヘ。
ともだちにシェアしよう!