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41-パラレル番外編★合コンに女装参加したらカラオケの男前バイトに惚れた話

土曜日の昼過ぎ、青春真っ只中な男子高校生のコーイチはカラオケで開かれる合コンに向かっていた。 「ま、待ってぇ、ヒール怖ぇ~」 男子サイドではなく女子サイドとして女装参加するために。 「コーイチくん、ほんと似合ってる、わたしのニットワンピ」 「わたしのブーツもピッタリじゃ?」 「人にメイクするの初めてだったけど楽しかったぁ」 膝上丈のニットワンピも、ロングブーツも、顔いっぱいに念入りにメイクを施したコスメも。 ぜーんぶ本日一緒に合コンに参加するクラスメート女子のものだった。 「服とかクリーニング出して返すから!」 「いいよ、あげる、もう着ないから」 「あ、そのブーツも一昨年買ったやつだしコーイチくんにあげちゃうね」 ふーん、特に全然いらないんだけど、まぁいっか! コーイチが合コンに参加することが決まったのは昨日の金曜日だった。 『え? 俺が女装して大学生相手の合コンに?』 休み時間、クラスで一番目立つオトナっぽい女子グループに突然呼ばれ、ウキウキしながら一目散に駆け寄ってみれば予想外のお誘いで。 『相手が一人増えたから、こっちも一人増やしてほしいって、だからコーイチくんに来てほしいなって』 『な、なんで俺? 他の女子に頼めばいーんじゃ?』 『コーイチくん、体育祭で女装したでしょ?』 仮装競争でノリノリでJK女装してアンカーで走って転んでビリになった苦い記憶が蘇ってきてコーイチは引き攣った笑みを。 『転んでビリだったけどセーラー服すごく似合ってたよね』 『あんなかんじでまた女装していっしょに合コン出よ?』 『で、でもそれって相手を騙すことになんないかな?』 『そんな深く考えないでいーよ』 『なんか楽しそうじゃない?』 『そうっ? 楽しいかなっ? じゃあ行くっ』 そんなわけで高嶺の花的な女子グループのお誘いにデレデレホイホイつられて女装参加を決めたコーイチ。 「あ、そーだ、コーイチくんって呼んだら男子だってバレちゃうか」 「コイちゃんにしよ、コイちゃん」 「あ、俺コイちゃんっ? コイちゃんねっ? わかった!」 慣れないヒールで遅れがちなコーイチ、悠々と先を行くクラスメート女子らにうんうん頷いてみせた。 う、髪が邪魔くさい。 なんかいろいろつけられて、首にさわるっていうか、くすぐったい。 バスターミナルの男子トイレでそそくさ着替えて、綺麗で明るいパウダールームでメイクからヘアセットまでしてもらって、自分が着ていた服はでかめのバッグに詰め込んで抱き抱えて。 どこからどう見ても女の子なコーイチは数メートル先で悠然とはしゃぐ同級生ご一行を必死こいて追って街角のカラオケ店へ入った。 成人済みの私大生だという合コン相手はすでに入室しており、受付カウンターで本物女子らが確認している傍ら、手持無沙汰にロビーをぼんやり見回していたら。 「ママぁっっ」 いきなりおけつにタックルされてぎょっとした。 振り返ればちっちゃな男の子がしがみついておけつに顔を埋めているではないか。 「ど、どしたの、迷子? 俺は、じゃないか、コイちゃんはママじゃないんだけど?」 キョトンした男の子が自分からちょっと離れ、バッグを抱えているコーイチは苦心してしゃがみ込み、目線の高さを同じにした。 「こいちゃん、ぼくのママ、どこ?」 「えー、コイちゃん、ママ知らないよ、どこだろーね、お店の人に聞いてみる?」 「コーイチくん、あ、コイちゃんか、五階行くよ」 「エレベーターもう来ちゃう」 エレベーター前にさっさと移動したクラスメート女子、コーイチは慌てたものの、トイレから出てきた母親に男の子が駆け寄っていったのでほっとした。 「ママいたね、よかったね、じゃあバイバイ」 「ばいばい、こいちゃん」 母親にしがみついた男の子とバイバイし合ってエレベーターにあたふた乗り込んだ。 「あー、コイちゃんです、どーもよろしくお願いしま、」 「コイちゃんさ、なんか一人だけ系統違うくない?」 「初々しいっていうか」 「みんなオトナっぽいけどコイちゃんは突き抜けて女子高生ってかんじだね」 うわーーー、なんかみんな軽ーーーい。 てか六対六の十二人って結構な大所帯だよな? てか突き抜けて女子高生ってどーいうこと? 天井からシャンデリアがぶら下がったラグジュアリー感満載ルーム。 クッションの置かれたレザーソファがコの字に並び、中央のテーブルにはすでに軽食やドリンクが用意されていた。 「ミックスピザ、お持ちしました」 出入り口から一番近い場所に座っていたコーイチ、大皿やグラスをあたふたずらし、運ばれてきた次の品を置けるようスペースをつくった。 「ありがとうございます」 はぁ、なんかもう疲れた、このブーツがとにかくツライ、ちょっと脱いでもいーかな、脱いだらみんなに怒られっかな……。 「空いたグラス、お下げします」 あれ? この店員さん、めちゃくちゃイケメンだぁ。 ここにいる軽~〜い大学生共よりかっこいいの確実、 「コイちゃんは誰の曲歌うの?」 横に座っていた大学生にいきなり肩を抱かれてコーイチはびっくりした。 「あー、コイちゃんは何歌うっけ、えーと」 「それかわいーよね、いつも自分のことそんな呼ぶの? か・わ・い・い」 相当酔ってますね、こいつ。 店員は速やかに去っていった。 背が高くてウェイター風の制服をすんなり着こなした、ちょっと鋭い目つきをした彼はコーイチの脳裏にさり気なく痕を残していった。 あーいう制服さらっと着ちゃうの、いーなー。 イケメンっていうより男前だったなー。 俺はと言えば……女子のお古のニットワンピ……。 昔っから指摘されてきた女顔は、今や、みんながポーチで持て余してたっていうコスメでぬりぬりされまくり……。 「コイちゃんは前にどんな彼氏いたの?」 うるせー、彼氏なんかいるわけねー、そもそも彼女だっていたことねー、ぴぇぇぇん……。 「よし、じゃあそろそろみんなも飲もーか」 コーイチはまたまたびっくりした。 聞いてないよとクラスメート女子らに視線を配れば、自分達も聞いていないと首を左右に振られて戸惑った。 「わたしたち未成年だから飲めないよ」 「うん、むり」 「そんなかたいこと言わないでさ、カルアミルクとかジュースみたいなもんだし?」 「コレならイッキしてもぜんっぜん問題ないよ!」 「イッキ! イッキ!」 いきなり巻き起こったイッキコール。 手拍子までつけて大声で捲し立てられ、おっかないノリにコーイチがヒいていたら。 「んー、じゃあコイちゃんが代表してイッキしまーす」 「え!?」 「そだね、がんばれ、コイちゃん」 「え!!??」 え、俺がイッキしなきゃなんないの? え、まじでなんで? え、ふつうに嫌なんだけど? 「コイちゃん、イッキ! イッキ! イッキ!」 う、うるさ、真横で大声出すな~~! 「早いとこイッキしないと盛り下がっちゃうよ!!」 嘘でしょ。 今まで一口だってお酒飲んだことねーのに。 カルアミルクのグラスを掴まされたコーイチは内心青ざめた。 隣の男に強引に立たされるとクラスメート女子にまで手拍子を送られて愕然となった。 ま、まさか俺って一気飲み要員だったの? そんなの聞いてない、聞いてないよ~~! しかし止みそうにないイッキコール。 合コンメンバー全員に追い立てられたコーイチは泣く泣く飲酒を決意した。 確かに女子に飲ませるのも可哀想か、ここは男の俺が頑張らなきゃと、無駄に己を奮い立たせて。 掴み直したグラスに口をつけようとした。 「一気飲みとかやめろ」 突然、グラスを持っている方の手首を掴まれた。 ぎょっとして背後を見れば……出入り口のドアを開けていつの間に入室していた先程の店員とバッチリ目があった。

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