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「センセイ……ムッキムキじゃん……」
「この姿ではそうなる」
「化け犬って、なに? 神様? 妖怪? モンスター?」
「化け犬は化け犬だ」
「……こんな誕生日サプライズ、滅多にないよ、きっと地球一のサプライズだよ、うん」
俺もソファの上で起き上がって、とれかかっていたシュシュをテーブルにポイして、肩で深呼吸した。
「あ……まさか化け犬だから犬がいっぱい来たの?」
センセイはうなずいた……いや、ほんと、見た目は黒毛の狼男以外の何物でもない、ついさっきまでの体育教師の面影はどこにもない……。
「野良猫にはよく威嚇される」
……いや、そうでもないかな?
いやに重低音ボイスだし、体格も二倍くらい……は言い過ぎか、1・5倍くらいでっかくなってるし、ぱんっぱんなズボンは今にもはち切れそーだし、しかもフッサフサな尻尾つき……そもそも頭は狼まんまなんだけど。
鋭い目はセンセイだ。
俺のハートを最初に奪っていったところ。
たまに殺し屋じみた眼光をちらつかせるのがたまんない……。
「ビビらせて悪かったな」
立派な三角耳をピンと立てたセンセイのどでかい手で頭をナデナデされた。
あ。
サイズは違うけど、これもいっしょ……。
「やっぱり怖いか」
「ちょっと怖い」
「そうか」
「でも、うん、大分落ち着いた。混乱してるし、心臓もどっくんどっくんうるさいけど」
「俺を嫌いになるか」
まだナデナデされていた俺は……びっくりした。
体育教師バージョンよりも、こっ……んな強そうなカラダしてるのに、そんな弱気なこと言うなんて意外だった。
「俺が好きになったのは体育教師の緒方巽センセイ」
床に窮屈そうに跪いてるセンセイと俺は向き直る。
「化け犬バージョンのセンセイは、今、知ったばっかなわけで……ちょっと怖いし、慣れないけど……生まれて以来、久々におぎゃーって叫んじゃったけど……うん……嫌いじゃないよ?」
「本当か?」
えっ。
膝に顎を乗っけてきたセンセイに俺はかたまった。
ネットで見たどの写真動画にも勝る、ド迫力満点の「あごのせ」に釘づけになった。
「よかった」
きゃ……っ……きゃわいい……!!
「かわいい、センセイ」
「は?」
「ワンコみたい」
「俺は化け犬だ」
「撫でてもいい? 耳、さわってもい? うわぁ~、ふかふかだ~、頭の後ろにもタテガミみたいなのあるんだね、ライオンっぽい、うわぁ~、もふもふだ~、もっふもふ~♪」
「……ちょっと怖かったんじゃねぇのか」
化け犬バージョンのモフモフボディをべたべた触っていたら。
センセイに片手をベロリと舐められた。
「ッ……!!」
俺は慌てて手を引っ込めて「あごのせ」センセイを睨む。
「今ッ、俺の手ッ、食べようとした!!」
センセイのご立派なフサフサ尻尾が床をピシャリと打つ。
後頭部から背中にかけてのタテガミがちょっとだけ逆立った。
「人間の姿。この姿。俺は自由自在に変化 できる。ただな、猛烈な興奮に陥ると否応なしに化け犬の血が騒いで、この姿にならざるをえなくなる」
「へ……へぇ……ふーーーん? あれ? え!? マジで!!」
「なんだ」
「じゃあセンセイって童貞!?」
「……どうしてそうなる」
「だって興奮したらこの姿になるんでしょ? じゃあエッチのとき、どーしたの……? あ、もしかして……歴代カノジョもこのこと知ってーー」
「誰も知らない」
センセイははっきりそう答えた。
シャツワンピ越しにでっかい両手で俺の太腿を鷲掴みにして。
「家族と犬棲の一部の人間以外、このことは誰も知らない」
「……太腿、ちょっと痛いです」
「言っておくがな、コーイチ。さっきは俺の意志でこの姿に変わったわけじゃねぇ。猛烈な興奮で変わらざるをえなかった」
「それって……」
「お前だけ違う。こんなことは俺も初めてなんだ」
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