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第9話
熱く硬いものが内側を擦りあげてくる。突かれるたびに響いてくるローションが粟立つような水音。
いつもよりはっきりと感じる熱と感触。まるでゴム越しでなく秋志の半身で貫かれているような気さえするが、視界が塞がれているせいで敏感に感じ取っているだけだろう。
勃ちあがりきった晴の半身を緩く扱かれながら荒々しく抽挿される。
「……っ……ふ」
声を我慢しようとしても口の端から耐え切れずこぼれてしまう。
春はアイマスクのせいで確かにいつもより敏感に反応している自分の身体に戸惑いながらも揺さぶられるまま合わせるように腰を動かしていた。
もっともっと秋志に突かれたい。ふたりでイキたい。
そんなはしたない、決して口には出せないことを想ってしまう。
「気持ちいいか?」
「んっ」
行為の最中、秋志は普段よりも情熱的になる。
たまにいまのように多少荒っぽいときもあるが気づかいを忘れることもない。
だから流されるままに春は快感を募らせてしまうのだ。
ほんの半年前までなら想像もつかなかった"今"。
男同士で出来ることは知っていてもまさか当事者になるなんてこと考えたことはなかった。
だが、後悔はない。
性別など関係なく秋志のことが好きだから身体を重ねるのだ。
容赦なく打ちつけられる腰。
肌のぶつかりあう音が響く。
的確に前立腺を狙い、前も扱かれて、その上いつもと違って遮られた視界にあっというまに敏感な身体は昇りつめようとしていた。
頭の中が沸騰しているような感覚。全身が敏感で、早く吐き出してしまいたいような、押し寄せる強烈な刺激に怖さも感じるような、もっと刺激が欲しいような、いろんな感覚が混ざり合って春の身体を震わせる。
「かわいいよ、春」
笑いを含んだ声が耳をくすぐった。
可愛いと言われて男としては嬉しくないが、秋志に言われると特別に思えるのはやはり恋ゆえだろうか。
絶頂へと押し上げられるように攻め立てられ春は大きく身体をしならせて吐精した。
同時に後でも達する。
大きく痙攣する身体に整えきれない荒い息。
宙に放り出されたような激しい快感に犯され春はぼうっと脱力した。
「なんだもうイったのか?」
ごめん、と恥ずかしさを感じながらも声を出すことができずに余韻に浸っていると、ふいに指先がこめかみに触れた。
そして一気に視界が開けた。
眩しさに春は目を細めた。
アイマスクをつけたときは部屋の照明は落していたはずだ。
いつのまにつけたんだろう。
いやそれよりも照明がついているということは自分の痴態をはっきりと見られていたのだ。
その事実に気づいて顔が熱くなるのを感じながら動きを止めている秋志を見上げた。
目が合う。
彼が笑う。
笑い返そうとして、春は動きを止めた。
「……え」
黒いはずの秋志の髪が、なぜか白金に染まっている。
その色は秋志の持つものではない。
だが知っている、見たことがある。
同じ顔で、この色の髪を持つ男、それは――。
「う、うわぁっ」
驚きに目を見開き逃げようとした春をトキオは鼻で笑うと簡単に押さえつけ、止めていた動きを再開する。
「なんだよ、急に。大声出すなよなー。ったく一人でイってんじゃねえよ。ほら、さっきみたいに腰動かせよ」
状況が理解できない。
アイマスクをつけたのは確かに秋志だった。
だが今腰を打ちつけているのはトキオだ。
ぐちゅぐちゅと、水音と、肉を打つ音を響かせ、にやにやと春を見ている。
「な、なんで。や、いやだ……っぁ」
なんとか逃げだそうともがくが力の差は大きい。
さっきまでとは違い春の身体を気遣うことなく遠慮なしに激しく深く突き上げてくる。
「や、やめっ」
「おー、なかなか締まるな。もっと締めろ」
ベッドが軋む音と肉のぶつかり合う音がトキオの嘲笑と混じり合う。
春は混乱のまま逃げることもできずに首を振りながら衝撃に揺さぶられることしかできない。
「ンっ……一回出すか。味わって飲めよ?」
「……っえ、ぁっ……や、やだ、しゅ、しゅうじ、くんっ」
一際激しく突き刺された瞬間、後孔に埋まっていたものが膨張するのを感じた。
次いで熱が吐き出される。
今まで秋志とするときは必ずゴムをつけていた。
だからこんな感触を春は知らない。
だけど同じ男なのだ。いま自分の体内に吐き出されたものがなんなのか考えるまでもなくわかる。
「ひ……っ……やだ、きもちわるい……っ」
「っせぇな。ぎゃーぎゃー騒ぐな」
呆れたようにトキオはすべてを春の中に吐き出した。
吐精したはずなのに変わらず硬いままの抜かれることのないトキオのモノに春は慄きながらイヤだと首を振る。
「時間はたっぷりある。腹いっぱいになるまで出してやるから」
「……っ、やだ、いやだっ、離せっ」
「うっせぇって言ってんだろ?」
「ッ……ぁ」
鈍い音が響き、腹部に走る痛みに春は顔を強張らせる。
殴られたのだ、とその事実に身が凍る。
「あんまりガタガタ言ってるとまじでお前んち潰すぞ?」
トキオの冷やかで低い声に息を詰め、困惑の眼差しを向けた。
「お前んちのショボイ会社、ひねりつぶしていーのかってことだよ」
「……な、ん」
今の状況で混乱している頭に、さらに混乱を促すような言葉が投げつけられる。
「ああ、あと早瀬の社長夫妻も、いれるか?」
「……」
早瀬――は秋志の名字だ。
社長夫妻ということは秋志の両親を指す。
「なに、言って……っ」
「だからさぁ」
心底楽しくてしかたないとばかりに唇を歪めるトキオに心臓が掴みあげられるような気分を覚えたときだった。
「……いい加減にしろ」
突然割って入ってきた冷たい声。それはトキオと同じで、だけど違う。
同じ声だ。
それを持つものと言えば春がよく知る、ひとりしかいない。
「あ?」
剣を帯びた眼差しをトキオが右手の方へと向けた。
ドクドクと心臓がもっと速く速く脈打つのを感じながらもう一人の存在を見たくなくて知りたくなくて見られたくなくて、だけど身体は勝手に反応し視線を向ける。
壁際にゆっくりと立ち上がる――秋志の姿が、目に映った。
「……っ、ぁ」
ここは秋志の部屋なのだ。居ておかしくない。
いやだけどだけど。
全部見られていた?
見られて――でも、だけど、いったいいつ。
「約束が違うだろ」
「あ?」
「こうすれば……春の家と俺の両親とにもう……手を出さないと言ったはずだ」
何の話だ。
春は愕然と秋志を見つめるが、秋志は険しい目でトキオを見つめている。
「チッ。しょーがねぇだろ、コイツがうっせぇんだから」
「……秋志くん」
弱々しく春が呼ぶと一瞬秋志が視線を向け、だがすぐに逸らし俯いた。
なんで、どういうことなんだ。
重苦しい空気が漂う中すがるように秋志を見つ続ける。
「……ごめん、春」
ややしてぽつり秋志が呟き春の傍に歩み寄った。
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