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第8話

秋志の部屋のベッドはセミダブルだ。 成長期の男二人が寝るにはもう手狭だが重なってしまえば問題ない。 ベッドに春をそっと押し倒しまたがる。 もう何度も身体を重ねていてもいまだに初々しさを損なわない春の真っ赤になった顔に笑みが浮かぶ。 秋志は恥ずかしそうに目を泳がせている春の身体に触れながらキスを落した。 中等部から全寮制のこの学校に入ってきて秋志も春も恋などしたことないまま高等部にあがった。 出会ったのは一年の終わり。トキオがこの学園にやってきた後だった。 「春、平気か?」 「ん、ん、だい……じょうぶっ」 恋も知らなければ女も、ましてや男なんて知るはずもなかっただろう春の身体の後孔には秋志の指がもう三本うまっている。 この学園では男同士のセックスが普通にまかり通っているが春はきっと考えたこともなかっただろう。 まだ付き合う前に、男同士の恋愛は否定しないが恋愛自体がよくわからない、と気恥ずかしそうにしていたのを秋志は思い出した。 そんな春が秋志を受け入れ、そして使うことなんてなかったかもしれない孔に指をいれられ喘いでいる。 はじめは苦しさのほうが大きかっただろうこの行為も回を重ねるごとにきちんと最初から快感を得れるようになってきていた。 「春……」 顔を上気させ声を殺しながら快感に耐えている様子に早く己を打ちこみたくなる。 だけど、 「ちょっと起きて」 それはできないのだ。 「……うん……っ」 指を引き抜くと小さく呻き春は身体を起こした。 その目がもうそろそろなのだろうかと緊張と期待に揺れている。 「少しだけ今日は変わったことしないか?」 「……変わったこと?」 潤んだ目が秋志を見つめる。 秋志はきちんと笑えているだろうかと自分の顔を確かめたくなりながらも用意していたものを手に取った。 「目、つぶって」 「え? う、うん」 言われたまま目を閉じる素直な春に秋志はそっとそれを――アイマスクをはめた。 「な、なに?」 慌てる声に、安心させるように明るく声をかける。 「アイマスクだよ」 「なんで?」 戸惑うのはしょうがないだろう。 できるだけ不安をとりのぞければいい、と秋志はキスをしながら春の頬に指を添える。 「ここだけの話なんだけど」 「……うん?」 「この前ヒロと話しててさ」 「ヒロって……書記の?」 「そう。たまたま生徒会でふたりになって、そのときにその……健全な男子高校生だし話がそういう話になったんだ」 「あ、ああ……」 「それでヒロがこの前目隠しプレイしたっていってて」 さらりと告げられた内容に春の顔が一気に真っ赤に染まり一層慌てた様子になる。 「そ、それって」 「かなり良かったらしい」 「そうな……んだ」 アイマスクの下ではきっと目を落ち着きなく泳がせてるだろうことが安易に想像できる。 春は恐る恐るといった手つきでアイマスクに触れていた。 「で、でも俺……」 「だからたまにはこういうのもいいかなと思ってさ」 小さく呟きかけた春の言葉にかぶせるように秋志は早口で言って深いキスをしかける。 粘膜をくすぐり愛撫していくと春の身体が弛緩していく。それに安堵しながらこのまま抱きしめて、抱きたくなる。 できないのに。 キスをやめ、アイマスク越しにそっと目の上にキスを落とす。 このアイマスク。これが妥協点。これがなければこのあと苦しくなるのは――春だ。 秋志は安心させるようにまた唇へとキスをしながら勃ちあがっている春のモノを握りこんだ。 「っ……」 「ほら、見えないとどういうことされるかわからなくって興奮するだろ?」 すでに溢れていた先走りを絡めながら上下に扱けば春は肩を震わせて、でも、と口の中で呟いた。 「今日だけ、試しに。な? こうして俺の声聴こえてるんだから大丈夫だよ」 扱いたまま春の身体を押し倒し足を開かせる。 空いている方の手でローションで濡れた後孔に再び指を突きして前立腺を擦ればさっきよりも身体が大きく震え漏れた声も甘さを増していた。 「春、大好きだよ」 「……んっ……俺も、好き……っ」 受け入れたことにほっとしながら念入りにほぐすのを再開する。 部屋には春を気遣う秋志の声とローションや先走りが擦れる音が響いていた。 次第に春の声も抑えがきかないといったように乱れ始め、それを見計らったようにドアが静かに開いた。 ちらり、秋志が視線を向けると、軽薄な笑顔で軽く手を振るトキオの姿。 秋志はぐっと奥歯を噛み締めると一呼吸置いて指を抜いた。 「ゴムつけるから、待ってて」 「……へ……、あ、……うん」 ベッドから降りサイドチェストからゴムを取り出すと秋志はそれを放り投げた。 受け取ったのはトキオ。 だがそれを床に放り、トキオはベッドに上がる。 秋志は顔を背むけると足音を消して壁際に移動すると床に座り込んだ。 握り締めた拳を口元に押しあてる。 「――春。いれるぞ?」 半身を取り出したトキオが春の足を掴んで割って入る。 春の後孔に宛がわれる熱。 そして春へと向けられた声は普段のトキオのものではなく秋志の柔らかな声音を真似たものだ。 「……いいよ」 まるで疑いもなく、頷く春。 ――それは俺じゃない。 そう言ってやりたいのをこらえ秋志は一層強く口元を押さえた。 双子、だ。 普段は見間違えることないのは髪と正反対のイメージのせいだ。 だが目隠ししてどちらかが互いを真似れば、きっともう誰も見分けはつかない。 俺じゃないよ、春。 胸の内で秋志はもう一度呟きながら、トキオがゆっくりと腰を進めるのを見ていた。 遮られた視界。 知らない方が、幸せ、なのだ。 ***

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