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第7話
「はい、もういいよ」
髪からすり抜けていく秋志の指に寂しさを覚えながら「ありがとう」と乾かしてもらった髪に触れた。
秋志の部屋で夕食をとりゲームをしたりしながら風呂も入り終え、お互いに髪を乾かしあってもう時計の針は10時をさそうとしていた。
春の部屋の倍はある広さの秋志の部屋は1LDKになっている。
初めてこの部屋に来た時には驚いたものだ。
「またゲームでもする?」
学園では王子様と呼ばれている秋志だが春と同じ高校生にかわりはない。
ゲームもするし漫画も読む。自分となんらかわらないのだ、と知り合ってから気づき春は嬉しかった。
「そうだな」
ゲーム機の前に座りこんだ春の隣に秋志も腰を下ろす。
だがテレビはつけられず、どうしたのかと秋志を見れば抱きしめられた。
「……春」
肩に顔を伏せてきつく抱きしめてくる秋志に心臓の動きが早くなるのを感じながら春もそっとその背中に手を回す。
秋志と付き合うまで経験なんてまったくなかった春にももうこの後どうなるかはわかっているし、この部屋で何度も繰り返されたことだ。
だけどいつもならもうキスを交わしてるくらいなのに秋志は動かない。
「……秋志くん?」
今日は時折秋志がぼんやりとしていることがあった。
元気がない、とも言える。
どうしたんだろう、会長とのことだろうか?
心配になりながら呼びかければ、少しの間を開けてようやく言葉が返された。
「ベッド、行こうか……」
春の頰に指先が触れてきて優しく撫でる。秋志はそうして微笑むがどことなく覇気がない。
「う、うん」
秋志の表情が暗く映って、大丈夫か、と声をかけかけた。
だが次の瞬間には笑顔で手を引かれた。
いつもと変わらない笑顔に少し安堵しながら秋志に手を引かれベッドルームに足を踏み入れた。
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