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第6話
【今日、待ってるよ】
携帯に届いたメール。普段からたいして着信も受信もないその携帯はほぼ秋志用だといっても過言ではない。
表示された本文に笑みをこぼしながら春は手ぶらのまま寮の部屋を出た。
先週は秋志が予定があって一緒に過ごせなかったが今週は金曜の今日から日曜まで泊まりにおいでと言われていた。
もう何度も通っているから着替えも置いている。
生徒会フロアへは関係者以外立ち入り禁止、とはなっているが春には秋志からもらったスペアキーがあった。
もちろんこっそりと他の生徒たちに見つからないようにしなければならないが。
同じ寮、同じ学園。
いつだって同じ敷地内にいるというのに普段会うときは人目を忍んでだ。
温室で会うのも好きだがやっぱり気にせずにたくさん喋りたいし一緒にいたい。
「――やっぱ会長のほうが上ってことか」
浮足立ったまま秋志の部屋へ向かう春の耳に見知らぬ声が飛び込む。
「いやでもさ、7点差くらいだったろ」
「でも会長が来てからずっと2位じゃん」
「そういやこの前テスト結果の張り出しあったとき珍しくすっげえ悔しそうにしてなかった? 副会長」
「そうそう! いつも平然としてんのにな」
「めちゃくちゃ会長のこと睨みつけてたし」
「まあ会長はーー笑ってたけど」
どこのクラスかも知らない生徒たちが寮内にある自販機の前で笑って喋っていた。
密閉された学園生活の中で生徒会長と副会長の確執は話のネタとしてよくのぼる。
双子で、そして片方が憎しみを抱いている。
興味津々にみんな眺めているのだ。
春はギュッと眉を寄せ、立ち止まっていた脚を再び動かす。
確かにこの前行われた定期テストの結果発表で秋志は顔を曇らせていたのを春も見ていた。
いままでトキオに成績を抜かされても、生徒会役員選でーー会長がトキオに決まったときも、静かに受け入れていた秋志がこの前のテストのときは自分自身にひどく憤っていた。
それを春は感じていた。
だが秋志はそんなことくらいで負けたりはしない。
それに今日は自分もできるだけ励まそう。いやトキオのことなど考えないですむようにできるだけ明るく過ごそう。
秋志には笑っていてほしい。
春は拳を握りしめて気合を入れたのだった。
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