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プロローグ

光のない暗い生活の中、 家族の世話をする事だけが自分の存在理由だった。 母はボクが物ごころ付いた時には既に病気で他界していて、 父は毎晩酒を呑んではアルコールに溺れ、 まだ幼い妹の面倒を見るのはボクの役目だった。 そんなボクを見て、親戚や近所の主婦たちは、 「まだ子供なのに大変ね」 「貴方はいつも良い子ね」 「妹の面倒を見てえらいわね」 なんて言っていつも褒めた。 ボクはそれがとても嬉しかった。 酔った父親に暴力を振るわれ、クズだと罵倒されてばかりの自分が認められた。 自分もこの世に存在して居ていいのだと…… そう言われているような気になって安心した。 『ソレ』だけがボクの存在意義だった。 ボクは妹の世話を焼き、死んだ母親の代わりに家事をする。 そして酔った父からの理不尽な暴言と暴力に耐える。 それがボクの仕事なんだ。 ボクの使命なんだ。生きる意味なんだ。 たまに『可哀想』だとか『大変』だとか言ってくる人も居る。 だけどボクはそんな無責任な同情よりも『えらいね』という褒め言葉が欲しかった。 だってボクは自分の事を『かわいそう』だなんて思った事はないし、 今の生活だって、確かに幸せではないけれど、決して『大変』なんかじゃなかったから。 それに同情されるという事は、ボクはソイツより下だという事になってしまう。 つまりは見下されているのだ。 なんて屈辱なんだろう。 同情されればされるほど、ボクは惨めになっていく。 ボクは確かに、普通の子供と比べたら恵まれてはいないのだろう。 だけど不幸で惨めな自分を認めたくはなかった。 認めてしまったら、きっとボクは壊れてしまうから。 だから幼いボクは、自分より『ダメ』で『不幸』な子供を見つける事にした。 そうして見つけたのがキミだった。 近所に住んでる同い年の男の子。 同じクラスになった事がなかったから、今まで喋った事はなかった。 その子は自分の家の玄関の前で、膝を抱えて泣いていた。 ボクが「どうしたの?」と声をかければ、キミは涙でぐしゃぐしゃになった顔をボクに見せてこう言ったね。 「お母さんとお父さんが離婚しちゃう……」 キミの泣き顔を見て、ボクはキミの事を『かわいそう』だと思ったんだ。

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