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13 END

――………… ――…… ――…… 小学生の頃、俺は確かに内気で人見知りだった。 いじめられているというわけではないが、クラスに馴染めているとはとても言えなかった。 だけど友達が一人も居ないと言うわけではなかったんだ。 自分と同じような大人しめの子達と喋る事はあった。 だけどそうやって俺が友達と話す時、お前は必ず不安そうな顔をしていた。 俺はそれに気付いていた。 だからわざと意地悪に振舞って、友達を遠ざけた。 自分から己が孤立するように仕向けた。 高幸が悲しい思いをするくらいなら、友達なんか要らないと思ったから。 それで高幸が満足するのなら、それでいいと思った。 俺にとって高幸は恩人だったから。 両親の離婚が決まったあの日、俺は悲しくて苦しくて寂しくて…… 子供ながらに絶望してもうこのまま死んでやろうかとすら思っていた。 大人が信用できなくて、心細くて泣いていた。 そんな時に高幸が声をかけてくれて、本当に救われたんだ。 だから俺は高幸が大好き。 ずっと昔から、アイツの事が好きだった。 俺が完全に孤立すると、高幸は満足したのか嬉しそうだった。 そして益々俺の世話を焼くようになった。 俺も嬉々として俺の世話をする高幸を見るのが楽しかった。 だけど大人になるにつれて少しずつ、高幸の異常性に気付いていった。 高幸は俺に依存している。 高幸自身は俺が高幸に依存していると思っているようだけど、実際は真逆だ。 父親に『役立たず』と罵られながら育った高幸は、誰かの役に立っていないと自分には存在価値がないのだと…… そんな風にしか思えない人間になってしまったんだ。 高幸は必要以上に他人の世話を焼き、働きたがる。 これはある種の洗脳だと思う。 高幸にとって、俺みたいなタイプは都合が良かったのだと思う。 地味で冴えなくてクラスで浮いていて、落ちこぼれだからいつも誰かの助けを必要としている人間。 高幸が、そんな俺に依存するのは当然だった。 ――高幸が中学二年生の時、高幸の親が再婚した。 これまで高幸の仕事だった家事が、再婚相手の仕事になってしまった。 その時、高幸は正気を失いかけた。 自分の居場所がなくなった…… 自分が要らなくなったと、そう感じてしまったのだろう。 俺はそんな高幸を救うために、学校へ行くのを辞めた。 ほとんど引き籠りの様な状態になって、高幸に『新しい役目』を与えた。 高幸は俺の分のノートを取り、授業で使ったプリントを俺に届けた。 たまにクラスメイトからの寄せ書きや手紙なんかを持って来てくれたりもした。 その『役目』を与えられた高幸は、なんとか不安定にならずに済んだみたいだ。 ――でも、そんな生活を長く続けていて良い訳がない。 高幸の異常性に気付いた俺はいつも悩んでいた。 このままではお互いの為にならない。 高幸が俺に告白して来たあの日、俺はこの生活に終止符を打つ決意をした。 高幸に抱きしめられた時、このままではいけないと感じたんだ。 もっと、普通に、幸せになりたいと思った。 あの時の告白がとても嬉しかった。 高幸からの好意が純粋な好意ではないとは分かっていたけど、それでも嬉しかった。 俺は高幸が好きだからこそ…… だからこそ普通で健全な関係になりたかった。 少しずつでいいから変わっていけたらと思ったんだ。 ……でもそう思ったのは、間違いだったんだな。 ――俺はあの日、睡眠導入剤を大量に飲んだ。 勿論死ぬつもりなんかない。 導入剤程度では死ねない事は承知の上だった。 死なない程度に自分を傷めつけて、俺が『ダメ』な所を高幸に見せてやりたかった。 俺には高幸が居なくちゃダメなんだと、そう伝えたかった。 そうする事でお前を守ってやりたかった。 ……お前を、助けたかった。 俺の計画は成功して、俺は今精神病院に居る。 鬱病が悪化したなんて嘘だったけど、お前が幸せそうだからそれでいい。 ――コツコツ、と廊下から足音が聞こえる。 高幸の足音だとすぐに分かる。 今日も高幸は俺の世話をしにくる。 俺は高幸の為に廃人のフリをしなくてはならない。 何も出来ないフリというのは決して楽ではないが、アイツの為だ。仕方ない。 それで高幸が不安を抱かず心穏やかに過ごせるのならいいじゃないか。 アイツがそれでいいのなら、 それでアイツが正気を保っていられるのなら、 俺はどうなってもいい。 俺はアイツを支える為ならなんでもやってやる。 なんでもしてみせる。 だってそれが、俺に出来る唯一の恩返しだから。 俺はお前の望み通り、ずっとダメなままで居るから…… だからお前は安心して、俺の面倒を見続けたらいい。 ……大好きだよ、高幸。

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