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Ⅰ:1

 中学の卒業を迎える間際、俺は医療機関にてDomだと診断された。その時覚えた高揚感は、今でも直ぐに思い出せるほど強いものだった。  高校ではDom(ドム)の性を存分に利用して、身近なSub(サブ)を散々いたぶった。  正直Subなんて、下らなくて醜い生き物だと思ってる。だって、こんな三下な見た目の俺にすら、欲求が高まれば〝命令してくれ〟と縋ってくるのだから。  どんな世界で生きていたって、人間見た目が第一だ。  『中身が一番』なんて言う奴の言葉は信用しない。それが綺麗ごとでしかないことは、今まで十分すぎるほどこの身で堪能してきたから。だからこそ、腹が捩れるほど楽しかった。  今までなら絶対的に俺を見下してきたような容姿をした奴が、たった一言で足元に座り込み、潤んだ瞳をして俺を見上げる。そうして皆、口を揃えていうのだ。  命令をしてくれ、と。  ◇  失敗した、と思った時にはもう手遅れだった。  高校時代は互いが性に未熟で、行き過ぎた行為に疑問を持っても抵抗する術を持たなかった。だからこそ俺に与えられる無茶苦茶な仕打ちにも、褒美も貰えず放り出されたり、セーフワードを無視してプレイを続けられることにも、不満な顔をみせても口に出して文句を言う奴はいなかった。  奔放なDomと違ってSubは、自身がSubであることに恥じらいを感じている事が多く、Sub性を隠す者が大多数だった。  若さと経験値の少なさ、過ごす世界の小ささがそれに拍車をかけていたのだろう。 「大学内ではもう無理かな」  俺の前を通り過ぎていく多数の人間たちに、冷たい視線を向けられた。その中のほとんどがDomでもSubでも無い奴らで、お前らにD/Sの何がわかるんだと叫びたくなったが、奴らに俺の噂を流したのがそのD/Sなのだからどうしようもない。  向けられる視線の如く、俺の評判はいま地の底にあった。  苦労して入った大学で、俺は今まで通りSubを探し遊ぼうとした。しかし高校時代のように上手く行くと思っていたのも束の間、俺はあっと言う間に〝クズDom〟の烙印を押された。  大学内にいたSub連中は高校時代にいたぶってきた経験の浅いSubとは違い、既にいくつものDomと出会い、プレイを多数経験している玄人ばかりだった。そんな奴らにとって俺は、酷く無知で退屈で、ただ権利を振りかざそうとするウザイ奴でしかなかったのだ。 『Safe wordくらい守れよクズ』 『いくらDomでも、アンタの顔では無理かな』 『は? 今なんて言ったの? Kneel(ニール)? 嘘でしょ、全然従う気になれない』  奴らは、〝何をしても言う事をきくオモチャ〟という俺の中のSubの概念を覆し、それどころか俺に再び容姿へのコンプレックスを思い出させた。けれど、それをどうにかする力量や魅力など俺には一ミリも無かったんだけど…。

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