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Ⅰ:2
◇
珍しく誘われて参加した、他校との合同コンパで俺はとびきり美形なDomに出会った。
背が高く、質のいい筋肉であることが服の上からでも分かる程美しい肢体を持ったそのDomは、躰だけでなくその顔面の偏差値も異常に高かった。
通った鼻筋と、ぱっちりと開いた大きな瞳はまるで宝石みたいに輝いて、その周りには女性が羨む程の長いまつげが並んでいる。
少し長めの、明るい色に染められた髪には緩やかなウェーブがかかっており、跳ねた毛先が首元に絡みつき、妙に色気がたっていた。
完璧に磨き上げられた宝石であるその瞳に見つめられれば、例えその男がどこからどう見たって遊び人で軽薄そうであっても、Subだけでなく、同じDomであっても落とされる者が出てくるだろう。
皆そいつに夢中で、俺の存在など誰も気にしちゃいない。俺が存在することさえ気づいていない奴もいるだろう。思わず漏れそうになる舌打ちを必死で堪え、テーブルの端でちびちびと酒を舐めていると、突然チャラ男Domの周りがワァッと一際盛り上がった。
「え、やっぱりあの噂ってマジなの!?」
誰かがチャラ男Domに叫んでいる。
何がマジなんだよ煩ぇな、と睨むようにそちらへ目を向ければ、同じテーブルに居たほぼ全員が奴に注目していた。どうやら話を聞いてなかったのは俺だけらしい。
「うん、まぁ…少しでも素質があればイケると思うよ」
「マジかよ! 俺たちその噂聞いてたからさ、今日やってみて欲しい奴連れてきたんだよ!」
訳もわからぬまま無駄にテンションを上げた男を見ていると、その周りの奴が数人俺を見ているのに気づく。…なんだ?
「ぜひ今から実践して見せて欲しいんだけど、どう!?」
「うーん、俺にも一応好みがあるんだけどなぁ。どんな子ぉ?」
「アイツ! 伊沢 っていうんだけど」
そうしてテンションの高い男が突如こちらを見たかと思うと、無遠慮すぎる程にビシッと俺をゆび指した。
は…? なに言ってんだ、こいつ。よくよく見ればそいつは俺を合コンに誘った奴だった。そいつがこっちをゆび指すから、俺は嫌でもチャラ男と目が合ってしまう。
「見た目はちょっとアレだから、清宮 君には悪いんだけどさ。伊沢、マジでDomの風上にも置けない様なクズでさ。お仕置き的な感じでどう?」
「……ふぅん」
チャラ男Domこと清宮は、ハイテンション男の話を聞いているんだかいないんだか、適当に相槌をうちながらも俺から目を逸らさない。その視線に、俺の背中に冷たい汗が流れ落ちる。清宮が持つ視線の強さに、覚えがあったから。
Dom性の者なら誰もがもつ〝力〟と言うものがあって、その代表的な力に〝Glare 〟という眼力の様なものがある。
Glareの強さは人それぞれ違い、その力が強ければ強いほど力を向けられた相手はそのDomに従いたくなるという、魔力の様なものだ。
同じDom相手にそれを向ける時は怒りを露わにしていることが多く、威嚇として睨みをきかせ相手を退かせる。つまり、Glareが強ければ強いほどDomとしての魅力やレベルは高くなるのだ。
だがそれを、なぜこの男は今俺に向けるのか…。嫌な予感がした。
「どうかな、やっぱコイツじゃ食指動かない?」
「…ううん、むしろそそられた」
ハイテンション男に清宮がにやりと笑う。それを見てしまった俺の本能が〝逃げろ〟と叫んだ。だから一瞬で逃げを打ったのだが。
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