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『何だよ、飯より“俺”が食いたいって?』  僕の目の前で、威圧感のある男前が不敵に笑う。 『なっ、何言ってるんだよ、兄さん…』 『隠しても無駄だ』 『いやっ、あっ!』  何から何まで僕とは真逆の兄が、僕の両手を拘束する。  異国の人の様に色素が薄い兄と、しっかりと黒を纏う僕。身長だって兄は平均よりも随分と高いのに、僕の身長は平均を大きく下回っている。肉付きの悪い僕と違い、細身では有るもののバランス良く筋肉を付けた兄の体。  何一つ似ていない僕らは、兄弟だと口にしなければ誰もその事実に気付くことはない。だがそれもそのはず、僕らは兄弟と言っても、血など一滴も繋がってはいないのだから。 『やだ…やめて、やめて』 『ハッ! ヤダヤダ言いながら、結局いつも泣いて善がってんだろ。なぁ?』 『に、兄さんっ』 『“兄さん”じゃねぇ。ちゃんと名前呼べよ、ケイスケ…』  そう言って義兄は僕の素肌をあば――― 「おいッ!!!」  ハッとして目の前を見れば、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた男前な兄、葉介(ようすけ)がテーブルを叩き僕を睨んでいた。 「あ、あれ…」 「何ボサっとしてんだ、さっさと飯食え!」 「ひっ、」 「食い終わったら俺に珈琲淹れろ」 「ひゃいっ!」  ああ、またやってしまった…。  僕は冷や汗をかきながら、慌てて茶碗の中のご飯を口に掻き込む。その間もずっと鋭い目付きで兄が睨んでいるから、もう何と言うか、全く生きた心地がしなかった。

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