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 筒井螢介(つついけいすけ)、十五歳。趣味、妄想。  幼い頃から人間関係を築くことが得意でなかった僕は、友達と遊ぶ事を覚えるよりも先に妄想を覚えた。宇宙人になったり、イケメンのヒーローになったり、二次元のアイドルになることだってある、それはそれは楽しい妄想だ。  昔に比べれば人付き合いも多少はできる様になったが、それでも妄想癖は年々酷くなるばかりでとどまる事を知らない。だが、そんな僕でさえ、まさか自分が実の兄を妄想のネタに使うだなんて思ってもみなかった。  それも、あんな恐ろしい内容で…。 「珈琲っ!」 「はいっ、ただいま!!」  何とか空にした食器を持って台所に向かい、そこからチラリと後ろを伺えば、兄は組んだ足を揺らしながら退屈そうに新聞を捲っていた。その様子にホッと息を吐いて、珈琲の準備に取り掛かかる。  僕よりふたつ歳上の兄、葉介。 ハーフか何かだと間違えられる程髪や肌の色素が薄いのは本当だけど、血の繋がらない兄だというのは完全に僕の妄想だ。「兄さん」と呼んだことも無ければ、当然だが兄に性行為を求められ襲われた事も無い。  ただ、どうにもこうにも兄は昔から傍若無人な人間で、僕のことを小間使いか何かだと勘違いしている節がある。弟としての認識は皆無だ。だから仕事で帰りの遅い母に変わり行う家事は、全て僕の仕事。“分担”なんて言葉は僕ら兄弟の間に存在しない。  そんな兄に僕が不満を持つのは当然のことだと思うけど、それを面と向かって言えないのは兄の性格がアレなだけでなく、その腕っ節がべらぼうに強いからだ。  傍若無人で気性は荒く、売られた喧嘩も売った喧嘩も負け知らずの唯我独尊男に、豆粒のような僕が敵うはずがない。だから、ただ黙って言う事を聞くしかないのだ。 「どうぞ」  そっと目の前にマグカップを置けば、僕には目もくれず、お礼も言わずに兄が口を開く。 「風呂」 「…はい」  風呂場でスポンジを握り締め、再び溜め息を吐く。  大体、幾ら妄想癖があると言っても僕だって実の兄を相手にエロい妄想なんてしたくない。  もしも中身が信じられないほど優しくて、王子様みたいな兄だったらコロッと心を転がしてしまうことも有るのかもしれない。けど、どんなに顔が良くても兄の中身はアレだ。アレなのだ。だから絶対にそんなことは有り得なかったし、考えた事も無かった。  だがそんな考えは、ある日を境にガラッと僕の世界を覆してしまった。  それもこれも全ては一冊の本が原因であり、また“ソレ”を貸してきた相手が原因であるのだが…そんな事を今更悔やんでも仕方がない。例えほんの少しだったとしても、身の程知らずに欲を出した僕が悪いのだ。  ガックリと項垂れながらも、スポンジで浴槽の内側をゴシゴシ擦る。不愉快なザラつきが少しでも残っていると兄がキレるので、擦っては指でキュッキュと音を確かめながら洗う。 『オイオイ。そんなに腰突き出して、誘ってんのかよ』 『ちっ、違うよ! 僕はただお風呂をっ』 『照れんなよ、いつもの事だろ?』 『あっ!』  高校生にしては些か細すぎる僕の腰を、義兄の綺麗な手が強く掴んで引き寄せた。既に硬さを滲ませたソレを僕の臀部に擦り付ける。 『拒否するなよ。お前も母親には幸せになって欲しいだろ?』 『そ、そんな…酷いよ…』  涙を溜めて見上げれば、義兄は『そんな目で見んなよ、唆る…』と言っ――― 「おっせぇ! いつまで洗ってんだこのボケッ!!」 「ひゃあぁあっ!!」

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