作者: 石月煤子

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昼は古着屋の店員、夜はバーテンダーをしている二十八歳の北見の自宅マンションには小規模ながらもこじゃれたホームバーがある。 ワンルームの一角にエナメル塗装のバーカウンターが設置され、黒と白のスツールが二つ、向こう側のラックには様々な酒瓶や割り材がずらりと並んでいる。 自分でとりつけたという天井のルームライトがこれまた効果抜群、お店並みの雰囲気を醸し出していた。 こんなん女子とか大喜びだろ、俺だって普通にテンション上がるし。 「牛乳なんとか足りそうだな」 そもそも、こいつってバイ?  それとも男だけ? センスよくてバーテンしてて見るからに大人っぽい年上タイプで。 メグっちの元カレで、ていうか、今付き合ってる奴、実はいたりするんじゃないか? 「自分でつくってみる?」 航也はスツールに座っていた。 それまで膨れっ面で仕方なく来てやった感を取り繕っていたくせに、大人びたお誘いに好奇心を大いに刺激されて、カウンターの内側へ喜んで駆け込んだ。 「グラス割るなよ」 「これに入れればいいんだっ?」 「シェイカーな」 「牛乳とリキュールどれくらいの割合っ?」 「適当でいいよ」 軽々しい恵弥の適当ぶりを非難していた北見はそう答えた、航也は気にするでもなくリキュールをどぼどぼ注ぐ。 「多すぎ」 「えっ、適当でいいって言っただろっ?」 「まぁいいや、そっちが酔っ払うだけの話だし」 「牛乳どぼどぼ」 「生クリームあればもっとお前好みの甘口になるんだろうけどな」 「ガキ扱いすんな、カレーなら中辛だって余裕でいけるし」 「辛口はムリなんだ」 「じゃ、次、振ればいいんだよなっ」 前に店で見かけた北見の手つきを思い出して、航也は、意気揚々とシェイカーを振った。 上蓋をせずに。 よって中味は航也の顔へ。 「うわっ!」 「……」 甘いリキュールと牛乳で顔どころか服まで濡れた航也に、北見は、咄嗟に俯いたかと思うと。 ぶはっと声を立てて笑った。 「ま……さか、蓋しないで振るなんて、天才、航也」 「……うるせぇ」 「あーどうしよ、涙出てきた」 恥ずかしくて仕方ない航也は本当に涙を拭っている北見を放置し、タオルを求めてバーカウンターから離れようとした。 「それ、どんな味するの」 「は?」 急に腕をとられて引き寄せられ、胸と胸が重なって、顔と顔が一気に近づいた。 「味見させて」 北見は航也の泣き黒子を舐め上げた。 「やっぱりリキュール多すぎたな」 「は……離せよ」 「え?」 「離せ」 「なに?」 「き……聞こえて、る、くせ……っ!」 聞き取れない風をわざとらしく装ってさらに航也に近づいた北見はほろ甘い唇まで舐めた。 「北見、さ、」 当然のように口内に滑り込んできた舌先。 「ん、ん、ッ」 油断していた自分の舌を絡め取られて、腰まで抱き寄せられ、捕まってしまう。 悪酔いしてしまいそうなひどく甘いキス。 「ン……」 へべれけになりそうだ。

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