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第9話 渉君2

(なごみ語り) 「洋ちゃん、諒君と別れたって聞いたから、元気にしてるか心配だった」 渉君は僕の体をゆっくり触って確認する。 「体がガチガチ。緊張を解いていくからね。肩も腰も最悪だよ。僕が見ないうちにこんなにまで酷くなるなんて」 上衣を脱いで、うつ伏せになった。 渉君は黙々と鍼を打ち始める。渉君の鍼は細いのでほとんど痛みは感じない。刺している時間もほんの一瞬で、鍼灸師の彼は惚れ惚れするくらい真剣な顔になる。 「洋ちゃんは、僕に諒君のこと聞かないの?どうしてるか気にならない?諒君は今でも時々来るんだよ」 「…………」 「あのね、諒君は……」 「聞きたくない。諒が今何してようと僕には関係ないから」 本当は凄く気になっていた。 だけど、聞いたら想像して会いたくなって泣くのは目に見えている。もう、めそめそ泣くのは嫌だった。 「ごめん。聞きたくないよね」 「うん……」 「前の恋を忘れるには新しい恋だと思うんだ」 渉君が僕の背中をつうーっと撫でて、順々に鍼を打っていく。 「洋ちゃんが気になっている人は居ないかな。もしだったら誰か紹介するけど……」 生きていくので精一杯だから新しい恋をする気分にもなれなかった。 「いないし、いらない」 渉君の手が止まる。 「じゃあ、僕と付き合わない?」 「渉君と?うーん……今は恋愛自体を遠慮したいんだ……」 渉君は、友達で体のメンテナンスをしてくれる先生だから恋人とは違う。全く別の次元の存在だ。 「正直に言うと、こんな体の洋ちゃんをほっとけないんだ。次の恋が見つかるまででいいから、僕が洋ちゃんの面倒みさせて。ね?いいでしょ?美味しいご飯食べて、気持ちいいセックスしよう。僕は後腐れないよ」 「セックスはいいや。今ボロボロだし。それに渉君もネコじゃん」 「僕はどっちでもいけるから大丈夫。洋ちゃんがしたくなったらしよう。決まり。しばらく僕が洋ちゃんの保護者になる」 「保護者って。僕は24才だよ。面白いこと言い出すよね」 「いいの。物は試しでしょう。彼氏がいらないなら、保護者を囲っておこう」 こうして、渉君に半分押し切られる形で奇妙な関係が始まった。

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